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坊っちゃん

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  • あらすじ
  • 十一
  • 作家データ
少年時代から無鉄砲な江戸っ子の坊っちゃんと、肉親から疎んじられる彼に無償の愛を注ぐ女中である清の描写から『坊っちゃん』の物語は幕を開く。

坊っちゃんは両親と死別後、清とも離れ、四国の旧制中学校に数学の教師として赴任する。着任早々、校長には狸、教頭には赤シャツ、画学の教師には野だいこ、英語の教師にはうらなり、数学の主任教師には山嵐と、それぞれにあだ名を付けた。

坊っちゃんは授業の時に生徒達から、てんぷらそばを四杯食べた件等の私事について執拗に冷やかされる。また初めての宿直の夜には、寄宿生達から蒲団の中に大量のバッタ(厳密にはイナゴ)を入れられる等の嫌がらせを受け、激怒して、何としても犯人を突き止めようとしたため、大事になってしまう。

坊っちゃんは赤シャツとその腰巾着である野だいこから、生徒による嫌がらせは山嵐の扇動によるものであると婉曲的に吹き込まれ、一時は真に受けてしまう。しかし、後日の職員会議において、先の寄宿生の不祥事に坊っちゃんが毅然とした措置を主張したところ、狸をはじめとする事なかれ主義の職員達は取り合ってくれなかったのに対し、山嵐だけが坊っちゃんを支持してくれた。お互いに対する誤解は解けていき、坊っちゃんと山嵐とは、かえって強い友情で結ばれるようになる。

うらなりには、マドンナとあだ名される婚約者がいたが、赤シャツがマドンナへの横恋慕から、お人好しのうらなりを体良く延岡に左遷したという事実を知り、坊っちゃんは義憤にかられる。実は山嵐も、赤シャツの横恋慕を糾弾したため、逆恨みされていたのであった。

日露戦争の祝勝会の日に、坊っちゃんと山嵐は赤シャツの謀略により、中学校と師範学校の生徒同士の乱闘騒ぎに巻き込まれた上、いわれ無き生徒扇動の罪を着せられ、山嵐が辞職に追い込まれる。卑劣な仕打ちに憤激した坊っちゃんと山嵐は、赤シャツと野だいこの不祥事を暴くための監視を始め、ついに芸者遊び帰りの赤シャツと野だいこを取り押さえる。そして芸者遊びについて詰問するも、しらを切られたため、業を煮やし、激しく暴行を加えた。

即刻辞職した坊っちゃんは、帰郷後、街鉄(現在の都電)の技手となって、再び、清と同居生活を始めるが、清が亡くなり、遺言通り小日向の養源寺に葬った事を記して、『坊っちゃん』の物語は幕を閉じる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
あらすじ
»»  2009.02.25.
* Novel 長篇 完結 日本 
作品名: 坊っちゃん
作品名読み: ぼっちゃん
著者名: 夏目 漱石 
出典: 
青空文庫


 親譲(おやゆず)りの無鉄砲(むてっぽう)で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰(こし)を抜(ぬ)かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談(じょうだん)に、いくら威張(いば)っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃(はや)したからである。小使(こづかい)に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼(め)をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴(やつ)があるかと云(い)ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

 親類のものから西洋製のナイフを貰(もら)って奇麗(きれい)な刃(は)を日に翳(かざ)して、友達(ともだち)に見せていたら、一人が光る事は光るが切れそうもないと云った。切れぬ事があるか、何でも切ってみせると受け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲(こう)をはすに切り込(こ)んだ。幸(さいわい)ナイフが小さいのと、親指の骨が堅(かた)かったので、今だに親指は手に付いている。しかし創痕(きずあと)は死ぬまで消えぬ。
»»  2009.02.25.
ぶうと云(い)って汽船がとまると、艀(はしけ)が岸を離(はな)れて、漕(こ)ぎ寄せて来た。船頭は真(ま)っ裸(ぱだか)に赤ふんどしをしめている。野蛮(やばん)な所だ。もっともこの熱さでは着物はきられまい。日が強いので水がやに光る。見つめていても眼(め)がくらむ。事務員に聞いてみるとおれはここへ降りるのだそうだ。見るところでは大森(おおもり)ぐらいな漁村だ。人を馬鹿(ばか)にしていらあ、こんな所に我慢(がまん)が出来るものかと思ったが仕方がない。威勢(いせい)よく一番に飛び込んだ。続(つ)づいて五六人は乗ったろう。外に大きな箱(はこ)を四つばかり積み込んで赤ふんは岸へ漕ぎ戻(もど)して来た。陸(おか)へ着いた時も、いの一番に飛び上がって、いきなり、磯(いそ)に立っていた鼻たれ小僧(こぞう)をつらまえて中学校はどこだと聞いた。小僧はぼんやりして、知らんがの、と云った。気の利かぬ田舎(いなか)ものだ。猫(ねこ)の額ほどな町内の癖(くせ)に、中学校のありかも知らぬ奴(やつ)があるものか。ところへ妙(みょう)な筒(つつ)っぽうを着た男がきて、こっちへ来いと云うから、尾(つ)いて行ったら、港屋とか云う宿屋へ連れて来た。やな女が声を揃(そろ)えてお上がりなさいと云うので、上がるのがいやになった。門口へ立ったなり中学校を教えろと云ったら、中学校はこれから汽車で二里ばかり行かなくっちゃいけないと聞いて、なお上がるのがいやになった。おれは、筒っぽうを着た男から、おれの革鞄(かばん)を二つ引きたくって、のそのそあるき出した。宿屋のものは変な顔をしていた。
»»  2009.02.25.
学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。但(ただ)し狸(たぬき)と赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の義務を免(まぬ)かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇(そうにんたいぐう)だからと云う。面白くもない。月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃(の)がれるなんて不公平があるものか。勝手な規則をこしらえて、それが当(あた)り前(まえ)だというような顔をしている。よくまああんなにずうずうしく出来るものだ。これについては大分不平であるが、山嵐(やまあらし)の説によると、いくら一人(ひとり)で不平を並(なら)べたって通るものじゃないそうだ。一人だって二人(ふたり)だって正しい事なら通りそうなものだ。山嵐は might is right という英語を引いて説諭(せつゆ)を加えたが、何だか要領を得ないから、聞き返してみたら強者の権利と云う意味だそうだ。強者の権利ぐらいなら昔(むかし)から知っている。今さら山嵐から講釈をきかなくってもいい。強者の権利と宿直とは別問題だ。狸や赤シャツが強者だなんて、誰(だれ)が承知するものか。議論は議論としてこの宿直がいよいよおれの番に廻(まわ)って来た。一体疳性(かんしょう)だから夜具蒲団(やぐふとん)などは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。小供の時から、友達のうちへ泊(とま)った事はほとんどないくらいだ。友達のうちでさえ厭(いや)なら学校の宿直はなおさら厭だ。厭だけれども、これが四十円のうちへ籠(こも)っているなら仕方がない。我慢(がまん)して勤めてやろう。
»»  2009.02.25.
君釣(つ)りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。赤シャツは気味の悪(わ)るいように優しい声を出す男である。まるで男だか女だか分(わか)りゃしない。男なら男らしい声を出すもんだ。ことに大学卒業生じゃないか。物理学校でさえおれくらいな声が出るのに、文学士がこれじゃ見っともない。

 おれはそうですなあと少し進まない返事をしたら、君釣をした事がありますかと失敬な事を聞く。あんまりないが、子供の時、小梅(こうめ)の釣堀(つりぼり)で鮒(ふな)を三匹(びき)釣った事がある。それから神楽坂(かぐらざか)の毘沙門(びしゃもん)の縁日(えんにち)で八寸ばかりの鯉(こい)を針で引っかけて、しめたと思ったら、ぽちゃりと落としてしまったがこれは今考えても惜(お)しいと云(い)ったら、赤シャツは顋(あご)を前の方へ突(つ)き出してホホホホと笑った。何もそう気取って笑わなくっても、よさそうな者だ。「それじゃ、まだ釣りの味は分らんですな。お望みならちと伝授しましょう」とすこぶる得意である。だれがご伝授をうけるものか。一体釣や猟(りょう)をする連中はみんな不人情な人間ばかりだ。不人情でなくって、殺生(せっしょう)をして喜ぶ訳がない。魚だって、鳥だって殺されるより生きてる方が楽に極(き)まってる。釣や猟をしなくっちゃ活計(かっけい)がたたないなら格別だが、何不足なく暮(くら)している上に、生き物を殺さなくっちゃ寝られないなんて贅沢(ぜいたく)な話だ。こう思ったが向(むこ)うは文学士だけに口が達者だから、議論じゃ叶(かな)わないと思って、だまってた。すると先生このおれを降参させたと疳違(かんちが)いして、早速伝授しましょう。おひまなら、今日どうです、いっしょに行っちゃ。吉川(よしかわ)君と二人(ふたり)ぎりじゃ、淋(さむ)しいから、来たまえとしきりに勧める。吉川君というのは画学の教師で例の野だいこの事だ。この野だは、どういう了見(りょうけん)だか、赤シャツのうちへ朝夕出入(でいり)して、どこへでも随行(ずいこう)して行(ゆ)く。まるで同輩(どうはい)じゃない。主従(しゅうじゅう)みたようだ。赤シャツの行く所なら、野だは必ず行くに極(きま)っているんだから、今さら驚(おど)ろきもしないが、二人で行けば済むところを、なんで無愛想(ぶあいそ)のおれへ口を掛(か)けたんだろう。大方高慢(こうまん)ちきな釣道楽で、自分の釣るところをおれに見せびらかすつもりかなんかで誘(さそ)ったに違いない。そんな事で見せびらかされるおれじゃない。鮪(まぐろ)の二匹や三匹釣ったって、びくともするもんか。おれだって人間だ、いくら下手(へた)だって糸さえ卸(おろ)しゃ、何かかかるだろう、ここでおれが行かないと、赤シャツの事だから、下手だから行かないんだ、嫌(きら)いだから行かないんじゃないと邪推(じゃすい)するに相違(そうい)ない。おれはこう考えたから、行きましょうと答えた。それから、学校をしまって、一応うちへ帰って、支度(したく)を整えて、停車場で赤シャツと野だを待ち合せて浜(はま)へ行った。船頭は一人(ひとり)で、船(ふね)は細長い東京辺では見た事もない恰好(かっこう)である。さっきから船中見渡(みわた)すが釣竿(つりざお)が一本も見えない。釣竿なしで釣が出来るものか、どうする了見だろうと、野だに聞くと、沖釣(おきづり)には竿は用いません、糸だけでげすと顋を撫(な)でて黒人(くろうと)じみた事を云った。こう遣(や)り込(こ)められるくらいならだまっていればよかった。
»»  2009.02.25.
野だは大嫌(だいきら)いだ。こんな奴(やつ)は沢庵石(たくあんいし)をつけて海の底へ沈(しず)めちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目(だめ)だ。惚(ほ)れるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云(い)う。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐(やまあらし)がよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪(わ)るい教師なら、早く免職(めんしょく)さしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖(くせ)に意気地(いくじ)のないもんだ。蔭口(かげぐち)をきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極(き)まってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違(ちが)う。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢(わるもの)だなんて、人を馬鹿(ばか)にしている。大方田舎(いなか)だから万事東京のさかに行くんだろう。物騒(ぶっそう)な所だ。今に火事が氷って、石が豆腐(とうふ)になるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵(たいてい)の事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻(まわ)りくどい事をしないでも、じかにおれを捕(つら)まえて喧嘩(けんか)を吹き懸(か)けりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔(じゃま)になるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向(むこ)うの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果(はて)へ行ったって、のたれ死(じに)はしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
»»  2009.02.25.
おれは即夜(そくや)下宿を引き払(はら)った。宿へ帰って荷物をまとめていると、女房(にょうぼう)が何か不都合(ふつごう)でもございましたか、お腹の立つ事があるなら、云(い)っておくれたら改めますと云う。どうも驚(おど)ろく。世の中にはどうして、こんな要領を得ない者ばかり揃(そろ)ってるんだろう。出てもらいたいんだか、居てもらいたいんだか分(わか)りゃしない。まるで気狂(きちがい)だ。こんな者を相手に喧嘩(けんか)をしたって江戸(えど)っ子の名折れだから、車屋をつれて来てさっさと出てきた。

 出た事は出たが、どこへ行くというあてもない。車屋が、どちらへ参りますと云うから、だまって尾(つ)いて来い、今にわかる、と云って、すたすたやって来た。面倒(めんどう)だから山城屋へ行こうかとも考えたが、また出なければならないから、つまり手数だ。こうして歩いてるうちには下宿とか、何とか看板のあるうちを目付け出すだろう。そうしたら、そこが天意に叶(かな)ったわが宿と云う事にしよう。とぐるぐる、閑静(かんせい)で住みよさそうな所をあるいているうち、とうとう鍛冶屋町(かじやちょう)へ出てしまった。ここは士族屋敷(やしき)で下宿屋などのある町ではないから、もっと賑(にぎ)やかな方へ引き返そうかとも思ったが、ふといい事を考え付いた。おれが敬愛するうらなり君はこの町内に住んでいる。うらなり君は土地の人で先祖代々の屋敷を控(ひか)えているくらいだから、この辺の事情には通じているに相違(そうい)ない。あの人を尋(たず)ねて聞いたら、よさそうな下宿を教えてくれるかも知れない。幸(さいわい)一度挨拶(あいさつ)に来て勝手は知ってるから、捜(さ)がしてあるく面倒はない。ここだろうと、いい加減に見当をつけて、ご免(めん)ご免と二返ばかり云うと、奥(おく)から五十ぐらいな年寄(としより)が古風な紙燭(しそく)をつけて、出て来た。おれは若い女も嫌(きら)いではないが、年寄を見ると何だかなつかしい心持ちがする。大方清(きよ)がすきだから、その魂(たましい)が方々のお婆(ばあ)さんに乗り移るんだろう。これは大方うらなり君のおっ母(か)さんだろう。切り下げの品格のある婦人だが、よくうらなり君に似ている。まあお上がりと云うところを、ちょっとお目にかかりたいからと、主人を玄関(げんかん)まで呼び出して実はこれこれだが君どこか心当りはありませんかと尋ねてみた。うらなり先生それはさぞお困りでございましょう、としばらく考えていたが、この裏町に萩野(はぎの)と云って老人夫婦ぎりで暮(く)らしているものがある、いつぞや座敷(ざしき)を明けておいても無駄(むだ)だから、たしかな人があるなら貸してもいいから周旋(しゅうせん)してくれと頼(たの)んだ事がある。今でも貸すかどうか分らんが、まあいっしょに行って聞いてみましょうと、親切に連れて行ってくれた。
»»  2009.02.25.
赤シャツに勧められて釣(つり)に行った帰りから、山嵐(やまあらし)を疑ぐり出した。無い事を種に下宿を出ろと云われた時は、いよいよ不埒(ふらち)な奴(やつ)だと思った。ところが会議の席では案に相違(そうい)して滔々(とうとう)と生徒厳罰論(げんばつろん)を述べたから、おや変だなと首を捩(ひね)った。萩野(はぎの)の婆(ばあ)さんから、山嵐が、うらなり君のために赤シャツと談判をしたと聞いた時は、それは感心だと手を拍(う)った。この様子ではわる者は山嵐じゃあるまい、赤シャツの方が曲ってるんで、好加減(いいかげん)な邪推(じゃすい)を実(まこと)しやかに、しかも遠廻(とおまわ)しに、おれの頭の中へ浸(し)み込(こ)ましたのではあるまいかと迷ってる矢先へ、野芹川(のぜりがわ)の土手で、マドンナを連れて散歩なんかしている姿を見たから、それ以来赤シャツは曲者(くせもの)だと極(き)めてしまった。曲者だか何だかよくは分(わか)らないが、ともかくも善(い)い男じゃない。表と裏とは違(ちが)った男だ。人間は竹のように真直(まっすぐ)でなくっちゃ頼(たの)もしくない。真直なものは喧嘩(けんか)をしても心持ちがいい。赤シャツのようなやさしいのと、親切なのと、高尚(こうしょう)なのと、琥珀(こはく)のパイプとを自慢(じまん)そうに見せびらかすのは油断が出来ない、めったに喧嘩も出来ないと思った。喧嘩をしても、回向院(えこういん)の相撲(すもう)のような心持ちのいい喧嘩は出来ないと思った。そうなると一銭五厘の出入(でいり)で控所(ひかえじょ)全体を驚(おど)ろかした議論の相手の山嵐の方がはるかに人間らしい。会議の時に金壺眼(かなつぼまなこ)をぐりつかせて、おれを睨(にら)めた時は憎(にく)い奴だと思ったが、あとで考えると、それも赤シャツのねちねちした猫撫声(ねこなでごえ)よりはましだ。実はあの会議が済んだあとで、よっぽど仲直りをしようかと思って、一こと二こと話しかけてみたが、野郎(やろう)返事もしないで、まだ眼(め)を剥(むく)ってみせたから、こっちも腹が立ってそのままにしておいた。
»»  2009.02.25.
祝勝会で学校はお休みだ。練兵場(れんぺいば)で式があるというので、狸(たぬき)は生徒を引率して参列しなくてはならない。おれも職員の一人(ひとり)としていっしょにくっついて行くんだ。町へ出ると日の丸だらけで、まぼしいくらいである。学校の生徒は八百人もあるのだから、体操の教師が隊伍(たいご)を整えて、一組一組の間を少しずつ明けて、それへ職員が一人か二人(ふたり)ずつ監督(かんとく)として割り込(こ)む仕掛(しか)けである。仕掛(しかけ)だけはすこぶる巧妙(こうみょう)なものだが、実際はすこぶる不手際である。生徒は小供(こども)の上に、生意気で、規律を破らなくっては生徒の体面にかかわると思ってる奴等(やつら)だから、職員が幾人(いくたり)ついて行ったって何の役に立つもんか。命令も下さないのに勝手な軍歌をうたったり、軍歌をやめるとワーと訳もないのに鬨(とき)の声を揚(あ)げたり、まるで浪人(ろうにん)が町内をねりあるいてるようなものだ。軍歌も鬨の声も揚げない時はがやがや何か喋舌(しゃべ)ってる。喋舌らないでも歩けそうなもんだが、日本人はみな口から先へ生れるのだから、いくら小言を云(い)ったって聞きっこない。喋舌るのもただ喋舌るのではない、教師のわる口を喋舌るんだから、下等だ。おれは宿直事件で生徒を謝罪さして、まあこれならよかろうと思っていた。ところが実際は大違(おおちが)いである。下宿の婆(ばあ)さんの言葉を借りて云えば、正に大違いの勘五郎(かんごろう)である。生徒があやまったのは心(しん)から後悔(こうかい)してあやまったのではない。ただ校長から、命令されて、形式的に頭を下げたのである。商人が頭ばかり下げて、狡(ずる)い事をやめないのと一般で生徒も謝罪だけはするが、いたずらは決してやめるものでない。よく考えてみると世の中はみんなこの生徒のようなものから成立しているかも知れない。人があやまったり詫(わ)びたりするのを、真面目(まじめ)に受けて勘弁するのは正直過ぎる馬鹿(ばか)と云うんだろう。あやまるのも仮りにあやまるので、勘弁するのも仮りに勘弁するのだと思ってれば差(さ)し支(つか)えない。もし本当にあやまらせる気なら、本当に後悔するまで叩(たた)きつけなくてはいけない。
»»  2009.02.26.
あくる日眼(め)が覚めてみると、身体中(からだじゅう)痛くてたまらない。久しく喧嘩(けんか)をしつけなかったから、こんなに答えるんだろう。これじゃあんまり自慢(じまん)もできないと床(とこ)の中で考えていると、婆(ばあ)さんが四国新聞を持ってきて枕元(まくらもと)へ置いてくれた。実は新聞を見るのも退儀(たいぎ)なんだが、男がこれしきの事に閉口(へこ)たれて仕様があるものかと無理に腹這(はらば)いになって、寝(ね)ながら、二頁を開けてみると驚(おど)ろいた。昨日の喧嘩がちゃんと出ている。喧嘩の出ているのは驚ろかないのだが、中学の教師堀田某(ほったぼう)と、近頃(ちかごろ)東京から赴任(ふにん)した生意気なる某とが、順良なる生徒を使嗾(しそう)してこの騒動(そうどう)を喚起(かんき)せるのみならず、両人は現場にあって生徒を指揮したる上、みだりに師範生に向(むか)って暴行をほしいままにしたりと書いて、次にこんな意見が附記(ふき)してある。本県の中学は昔時(せきじ)より善良温順の気風をもって全国の羨望(せんぼう)するところなりしが、軽薄(けいはく)なる二豎子(じゅし)のために吾校(わがこう)の特権を毀損(きそん)せられて、この不面目を全市に受けたる以上は、吾人(ごじん)は奮然(ふんぜん)として起(た)ってその責任を問わざるを得ず。吾人は信ず、吾人が手を下す前に、当局者は相当の処分をこの無頼漢(ぶらいかん)の上に加えて、彼等(かれら)をして再び教育界に足を入るる余地なからしむる事を。そうして一字ごとにみんな黒点を加えて、お灸(きゅう)を据(す)えたつもりでいる。おれは床の中で、糞(くそ)でも喰(く)らえと云(い)いながら、むっくり飛び起きた。不思議な事に今まで身体の関節(ふしぶし)が非常に痛かったのが、飛び起きると同時に忘れたように軽くなった。
十一
»»  2009.02.26.

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少年時代から無鉄砲な江戸っ子の坊っちゃんと、肉親から疎んじられる彼に無償の愛を注ぐ女中である清の描写から『坊っちゃん』の物語は幕を開く。

坊っちゃんは両親と死別後、清とも離れ、四国の旧制中学校に数学の教師として赴任する。着任早々、校長には狸、教頭には赤シャツ、画学の教師には野だいこ、英語の教師にはうらなり、数学の主任教師には山嵐と、それぞれにあだ名を付けた。

坊っちゃんは授業の時に生徒達から、てんぷらそばを四杯食べた件等の私事について執拗に冷やかされる。また初めての宿直の夜には、寄宿生達から蒲団の中に大量のバッタ(厳密にはイナゴ)を入れられる等の嫌がらせを受け、激怒して、何としても犯人を突き止めようとしたため、大事になってしまう。

坊っちゃんは赤シャツとその腰巾着である野だいこから、生徒による嫌がらせは山嵐の扇動によるものであると婉曲的に吹き込まれ、一時は真に受けてしまう。しかし、後日の職員会議において、先の寄宿生の不祥事に坊っちゃんが毅然とした措置を主張したところ、狸をはじめとする事なかれ主義の職員達は取り合ってくれなかったのに対し、山嵐だけが坊っちゃんを支持してくれた。お互いに対する誤解は解けていき、坊っちゃんと山嵐とは、かえって強い友情で結ばれるようになる。

うらなりには、マドンナとあだ名される婚約者がいたが、赤シャツがマドンナへの横恋慕から、お人好しのうらなりを体良く延岡に左遷したという事実を知り、坊っちゃんは義憤にかられる。実は山嵐も、赤シャツの横恋慕を糾弾したため、逆恨みされていたのであった。

日露戦争の祝勝会の日に、坊っちゃんと山嵐は赤シャツの謀略により、中学校と師範学校の生徒同士の乱闘騒ぎに巻き込まれた上、いわれ無き生徒扇動の罪を着せられ、山嵐が辞職に追い込まれる。卑劣な仕打ちに憤激した坊っちゃんと山嵐は、赤シャツと野だいこの不祥事を暴くための監視を始め、ついに芸者遊び帰りの赤シャツと野だいこを取り押さえる。そして芸者遊びについて詰問するも、しらを切られたため、業を煮やし、激しく暴行を加えた。

即刻辞職した坊っちゃんは、帰郷後、街鉄(現在の都電)の技手となって、再び、清と同居生活を始めるが、清が亡くなり、遺言通り小日向の養源寺に葬った事を記して、『坊っちゃん』の物語は幕を閉じる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

あらすじ

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少年時代から無鉄砲な江戸っ子の坊っちゃんと、肉親から疎んじられる彼に無償の愛を注ぐ女中である清の描写から『坊っちゃん』の物語は幕を開く。坊っちゃんは両親と死別後、清とも離れ、四国の旧制中学校に数学の教師として赴任する。着任早々、校長には狸、教頭には赤シャツ、画学の教師には野だいこ、英語の教師にはうらなり、数学の主任教師には山嵐と、それぞれにあだ名を付けた。坊っちゃんは授業の時に生徒達から、てんぷら...

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* Novel 長篇 完結 日本 

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作品名: 坊っちゃん
作品名読み: ぼっちゃん
著者名: 夏目 漱石 
出典: 
青空文庫


 親譲(おやゆず)りの無鉄砲(むてっぽう)で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰(こし)を抜(ぬ)かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談(じょうだん)に、いくら威張(いば)っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃(はや)したからである。小使(こづかい)に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼(め)をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴(やつ)があるかと云(い)ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

 親類のものから西洋製のナイフを貰(もら)って奇麗(きれい)な刃(は)を日に翳(かざ)して、友達(ともだち)に見せていたら、一人が光る事は光るが切れそうもないと云った。切れぬ事があるか、何でも切ってみせると受け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲(こう)をはすに切り込(こ)んだ。幸(さいわい)ナイフが小さいのと、親指の骨が堅(かた)かったので、今だに親指は手に付いている。しかし創痕(きずあと)は死ぬまで消えぬ。

2009.02.25.[Edit]
作品名: 坊っちゃん 作品名読み: ぼっちゃん 著者名: 夏目 漱石  出典: 青空文庫 親譲(おやゆず)りの無鉄砲(むてっぽう)で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰(こし)を抜(ぬ)かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談(じょうだん)に、いくら威張(...

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ぶうと云(い)って汽船がとまると、艀(はしけ)が岸を離(はな)れて、漕(こ)ぎ寄せて来た。船頭は真(ま)っ裸(ぱだか)に赤ふんどしをしめている。野蛮(やばん)な所だ。もっともこの熱さでは着物はきられまい。日が強いので水がやに光る。見つめていても眼(め)がくらむ。事務員に聞いてみるとおれはここへ降りるのだそうだ。見るところでは大森(おおもり)ぐらいな漁村だ。人を馬鹿(ばか)にしていらあ、こんな所に我慢(がまん)が出来るものかと思ったが仕方がない。威勢(いせい)よく一番に飛び込んだ。続(つ)づいて五六人は乗ったろう。外に大きな箱(はこ)を四つばかり積み込んで赤ふんは岸へ漕ぎ戻(もど)して来た。陸(おか)へ着いた時も、いの一番に飛び上がって、いきなり、磯(いそ)に立っていた鼻たれ小僧(こぞう)をつらまえて中学校はどこだと聞いた。小僧はぼんやりして、知らんがの、と云った。気の利かぬ田舎(いなか)ものだ。猫(ねこ)の額ほどな町内の癖(くせ)に、中学校のありかも知らぬ奴(やつ)があるものか。ところへ妙(みょう)な筒(つつ)っぽうを着た男がきて、こっちへ来いと云うから、尾(つ)いて行ったら、港屋とか云う宿屋へ連れて来た。やな女が声を揃(そろ)えてお上がりなさいと云うので、上がるのがいやになった。門口へ立ったなり中学校を教えろと云ったら、中学校はこれから汽車で二里ばかり行かなくっちゃいけないと聞いて、なお上がるのがいやになった。おれは、筒っぽうを着た男から、おれの革鞄(かばん)を二つ引きたくって、のそのそあるき出した。宿屋のものは変な顔をしていた。

2009.02.25.[Edit]
ぶうと云(い)って汽船がとまると、艀(はしけ)が岸を離(はな)れて、漕(こ)ぎ寄せて来た。船頭は真(ま)っ裸(ぱだか)に赤ふんどしをしめている。野蛮(やばん)な所だ。もっともこの熱さでは着物はきられまい。日が強いので水がやに光る。見つめていても眼(め)がくらむ。事務員に聞いてみるとおれはここへ降りるのだそうだ。見るところでは大森(おおもり)ぐらいな漁村だ。人を馬鹿(ばか)にしていらあ、こんな所に我...

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2009.02.25.[Edit]
いよいよ学校へ出た。初めて教場へはいって高い所へ乗った時は、何だか変だった。講釈をしながら、おれでも先生が勤まるのかと思った。生徒はやかましい。時々図抜(ずぬ)けた大きな声で先生と云(い)う。先生には応(こた)えた。今まで物理学校で毎日先生先生と呼びつけていたが、先生と呼ぶのと、呼ばれるのは雲泥(うんでい)の差だ。何だか足の裏がむずむずする。おれは卑怯(ひきょう)な人間ではない。臆病(おくびょう)...

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学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。但(ただ)し狸(たぬき)と赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の義務を免(まぬ)かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇(そうにんたいぐう)だからと云う。面白くもない。月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃(の)がれるなんて不公平があるものか。勝手な規則をこしらえて、それが当(あた)り前(まえ)だというような顔をしている。よくまああんなにずうずうしく出来るものだ。これについては大分不平であるが、山嵐(やまあらし)の説によると、いくら一人(ひとり)で不平を並(なら)べたって通るものじゃないそうだ。一人だって二人(ふたり)だって正しい事なら通りそうなものだ。山嵐は might is right という英語を引いて説諭(せつゆ)を加えたが、何だか要領を得ないから、聞き返してみたら強者の権利と云う意味だそうだ。強者の権利ぐらいなら昔(むかし)から知っている。今さら山嵐から講釈をきかなくってもいい。強者の権利と宿直とは別問題だ。狸や赤シャツが強者だなんて、誰(だれ)が承知するものか。議論は議論としてこの宿直がいよいよおれの番に廻(まわ)って来た。一体疳性(かんしょう)だから夜具蒲団(やぐふとん)などは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。小供の時から、友達のうちへ泊(とま)った事はほとんどないくらいだ。友達のうちでさえ厭(いや)なら学校の宿直はなおさら厭だ。厭だけれども、これが四十円のうちへ籠(こも)っているなら仕方がない。我慢(がまん)して勤めてやろう。

2009.02.25.[Edit]
学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。但(ただ)し狸(たぬき)と赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の義務を免(まぬ)かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇(そうにんたいぐう)だからと云う。面白くもない。月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃(の)がれるなんて不公平があるものか。勝手な規則をこしらえて、それが当(あた)り前(まえ)だというような顔をしている。よくまああんなに...

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君釣(つ)りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。赤シャツは気味の悪(わ)るいように優しい声を出す男である。まるで男だか女だか分(わか)りゃしない。男なら男らしい声を出すもんだ。ことに大学卒業生じゃないか。物理学校でさえおれくらいな声が出るのに、文学士がこれじゃ見っともない。

 おれはそうですなあと少し進まない返事をしたら、君釣をした事がありますかと失敬な事を聞く。あんまりないが、子供の時、小梅(こうめ)の釣堀(つりぼり)で鮒(ふな)を三匹(びき)釣った事がある。それから神楽坂(かぐらざか)の毘沙門(びしゃもん)の縁日(えんにち)で八寸ばかりの鯉(こい)を針で引っかけて、しめたと思ったら、ぽちゃりと落としてしまったがこれは今考えても惜(お)しいと云(い)ったら、赤シャツは顋(あご)を前の方へ突(つ)き出してホホホホと笑った。何もそう気取って笑わなくっても、よさそうな者だ。「それじゃ、まだ釣りの味は分らんですな。お望みならちと伝授しましょう」とすこぶる得意である。だれがご伝授をうけるものか。一体釣や猟(りょう)をする連中はみんな不人情な人間ばかりだ。不人情でなくって、殺生(せっしょう)をして喜ぶ訳がない。魚だって、鳥だって殺されるより生きてる方が楽に極(き)まってる。釣や猟をしなくっちゃ活計(かっけい)がたたないなら格別だが、何不足なく暮(くら)している上に、生き物を殺さなくっちゃ寝られないなんて贅沢(ぜいたく)な話だ。こう思ったが向(むこ)うは文学士だけに口が達者だから、議論じゃ叶(かな)わないと思って、だまってた。すると先生このおれを降参させたと疳違(かんちが)いして、早速伝授しましょう。おひまなら、今日どうです、いっしょに行っちゃ。吉川(よしかわ)君と二人(ふたり)ぎりじゃ、淋(さむ)しいから、来たまえとしきりに勧める。吉川君というのは画学の教師で例の野だいこの事だ。この野だは、どういう了見(りょうけん)だか、赤シャツのうちへ朝夕出入(でいり)して、どこへでも随行(ずいこう)して行(ゆ)く。まるで同輩(どうはい)じゃない。主従(しゅうじゅう)みたようだ。赤シャツの行く所なら、野だは必ず行くに極(きま)っているんだから、今さら驚(おど)ろきもしないが、二人で行けば済むところを、なんで無愛想(ぶあいそ)のおれへ口を掛(か)けたんだろう。大方高慢(こうまん)ちきな釣道楽で、自分の釣るところをおれに見せびらかすつもりかなんかで誘(さそ)ったに違いない。そんな事で見せびらかされるおれじゃない。鮪(まぐろ)の二匹や三匹釣ったって、びくともするもんか。おれだって人間だ、いくら下手(へた)だって糸さえ卸(おろ)しゃ、何かかかるだろう、ここでおれが行かないと、赤シャツの事だから、下手だから行かないんだ、嫌(きら)いだから行かないんじゃないと邪推(じゃすい)するに相違(そうい)ない。おれはこう考えたから、行きましょうと答えた。それから、学校をしまって、一応うちへ帰って、支度(したく)を整えて、停車場で赤シャツと野だを待ち合せて浜(はま)へ行った。船頭は一人(ひとり)で、船(ふね)は細長い東京辺では見た事もない恰好(かっこう)である。さっきから船中見渡(みわた)すが釣竿(つりざお)が一本も見えない。釣竿なしで釣が出来るものか、どうする了見だろうと、野だに聞くと、沖釣(おきづり)には竿は用いません、糸だけでげすと顋を撫(な)でて黒人(くろうと)じみた事を云った。こう遣(や)り込(こ)められるくらいならだまっていればよかった。

2009.02.25.[Edit]
君釣(つ)りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。赤シャツは気味の悪(わ)るいように優しい声を出す男である。まるで男だか女だか分(わか)りゃしない。男なら男らしい声を出すもんだ。ことに大学卒業生じゃないか。物理学校でさえおれくらいな声が出るのに、文学士がこれじゃ見っともない。 おれはそうですなあと少し進まない返事をしたら、君釣をした事がありますかと失敬な事を聞く。あんまりないが、子供の時、小梅(...

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野だは大嫌(だいきら)いだ。こんな奴(やつ)は沢庵石(たくあんいし)をつけて海の底へ沈(しず)めちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目(だめ)だ。惚(ほ)れるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云(い)う。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐(やまあらし)がよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪(わ)るい教師なら、早く免職(めんしょく)さしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖(くせ)に意気地(いくじ)のないもんだ。蔭口(かげぐち)をきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極(き)まってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違(ちが)う。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢(わるもの)だなんて、人を馬鹿(ばか)にしている。大方田舎(いなか)だから万事東京のさかに行くんだろう。物騒(ぶっそう)な所だ。今に火事が氷って、石が豆腐(とうふ)になるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵(たいてい)の事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻(まわ)りくどい事をしないでも、じかにおれを捕(つら)まえて喧嘩(けんか)を吹き懸(か)けりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔(じゃま)になるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向(むこ)うの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果(はて)へ行ったって、のたれ死(じに)はしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。

2009.02.25.[Edit]
野だは大嫌(だいきら)いだ。こんな奴(やつ)は沢庵石(たくあんいし)をつけて海の底へ沈(しず)めちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目(だめ)だ。惚(ほ)れるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云(い)う。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみ...

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おれは即夜(そくや)下宿を引き払(はら)った。宿へ帰って荷物をまとめていると、女房(にょうぼう)が何か不都合(ふつごう)でもございましたか、お腹の立つ事があるなら、云(い)っておくれたら改めますと云う。どうも驚(おど)ろく。世の中にはどうして、こんな要領を得ない者ばかり揃(そろ)ってるんだろう。出てもらいたいんだか、居てもらいたいんだか分(わか)りゃしない。まるで気狂(きちがい)だ。こんな者を相手に喧嘩(けんか)をしたって江戸(えど)っ子の名折れだから、車屋をつれて来てさっさと出てきた。

 出た事は出たが、どこへ行くというあてもない。車屋が、どちらへ参りますと云うから、だまって尾(つ)いて来い、今にわかる、と云って、すたすたやって来た。面倒(めんどう)だから山城屋へ行こうかとも考えたが、また出なければならないから、つまり手数だ。こうして歩いてるうちには下宿とか、何とか看板のあるうちを目付け出すだろう。そうしたら、そこが天意に叶(かな)ったわが宿と云う事にしよう。とぐるぐる、閑静(かんせい)で住みよさそうな所をあるいているうち、とうとう鍛冶屋町(かじやちょう)へ出てしまった。ここは士族屋敷(やしき)で下宿屋などのある町ではないから、もっと賑(にぎ)やかな方へ引き返そうかとも思ったが、ふといい事を考え付いた。おれが敬愛するうらなり君はこの町内に住んでいる。うらなり君は土地の人で先祖代々の屋敷を控(ひか)えているくらいだから、この辺の事情には通じているに相違(そうい)ない。あの人を尋(たず)ねて聞いたら、よさそうな下宿を教えてくれるかも知れない。幸(さいわい)一度挨拶(あいさつ)に来て勝手は知ってるから、捜(さ)がしてあるく面倒はない。ここだろうと、いい加減に見当をつけて、ご免(めん)ご免と二返ばかり云うと、奥(おく)から五十ぐらいな年寄(としより)が古風な紙燭(しそく)をつけて、出て来た。おれは若い女も嫌(きら)いではないが、年寄を見ると何だかなつかしい心持ちがする。大方清(きよ)がすきだから、その魂(たましい)が方々のお婆(ばあ)さんに乗り移るんだろう。これは大方うらなり君のおっ母(か)さんだろう。切り下げの品格のある婦人だが、よくうらなり君に似ている。まあお上がりと云うところを、ちょっとお目にかかりたいからと、主人を玄関(げんかん)まで呼び出して実はこれこれだが君どこか心当りはありませんかと尋ねてみた。うらなり先生それはさぞお困りでございましょう、としばらく考えていたが、この裏町に萩野(はぎの)と云って老人夫婦ぎりで暮(く)らしているものがある、いつぞや座敷(ざしき)を明けておいても無駄(むだ)だから、たしかな人があるなら貸してもいいから周旋(しゅうせん)してくれと頼(たの)んだ事がある。今でも貸すかどうか分らんが、まあいっしょに行って聞いてみましょうと、親切に連れて行ってくれた。

2009.02.25.[Edit]
おれは即夜(そくや)下宿を引き払(はら)った。宿へ帰って荷物をまとめていると、女房(にょうぼう)が何か不都合(ふつごう)でもございましたか、お腹の立つ事があるなら、云(い)っておくれたら改めますと云う。どうも驚(おど)ろく。世の中にはどうして、こんな要領を得ない者ばかり揃(そろ)ってるんだろう。出てもらいたいんだか、居てもらいたいんだか分(わか)りゃしない。まるで気狂(きちがい)だ。こんな者を相手...

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赤シャツに勧められて釣(つり)に行った帰りから、山嵐(やまあらし)を疑ぐり出した。無い事を種に下宿を出ろと云われた時は、いよいよ不埒(ふらち)な奴(やつ)だと思った。ところが会議の席では案に相違(そうい)して滔々(とうとう)と生徒厳罰論(げんばつろん)を述べたから、おや変だなと首を捩(ひね)った。萩野(はぎの)の婆(ばあ)さんから、山嵐が、うらなり君のために赤シャツと談判をしたと聞いた時は、それは感心だと手を拍(う)った。この様子ではわる者は山嵐じゃあるまい、赤シャツの方が曲ってるんで、好加減(いいかげん)な邪推(じゃすい)を実(まこと)しやかに、しかも遠廻(とおまわ)しに、おれの頭の中へ浸(し)み込(こ)ましたのではあるまいかと迷ってる矢先へ、野芹川(のぜりがわ)の土手で、マドンナを連れて散歩なんかしている姿を見たから、それ以来赤シャツは曲者(くせもの)だと極(き)めてしまった。曲者だか何だかよくは分(わか)らないが、ともかくも善(い)い男じゃない。表と裏とは違(ちが)った男だ。人間は竹のように真直(まっすぐ)でなくっちゃ頼(たの)もしくない。真直なものは喧嘩(けんか)をしても心持ちがいい。赤シャツのようなやさしいのと、親切なのと、高尚(こうしょう)なのと、琥珀(こはく)のパイプとを自慢(じまん)そうに見せびらかすのは油断が出来ない、めったに喧嘩も出来ないと思った。喧嘩をしても、回向院(えこういん)の相撲(すもう)のような心持ちのいい喧嘩は出来ないと思った。そうなると一銭五厘の出入(でいり)で控所(ひかえじょ)全体を驚(おど)ろかした議論の相手の山嵐の方がはるかに人間らしい。会議の時に金壺眼(かなつぼまなこ)をぐりつかせて、おれを睨(にら)めた時は憎(にく)い奴だと思ったが、あとで考えると、それも赤シャツのねちねちした猫撫声(ねこなでごえ)よりはましだ。実はあの会議が済んだあとで、よっぽど仲直りをしようかと思って、一こと二こと話しかけてみたが、野郎(やろう)返事もしないで、まだ眼(め)を剥(むく)ってみせたから、こっちも腹が立ってそのままにしておいた。

2009.02.25.[Edit]
赤シャツに勧められて釣(つり)に行った帰りから、山嵐(やまあらし)を疑ぐり出した。無い事を種に下宿を出ろと云われた時は、いよいよ不埒(ふらち)な奴(やつ)だと思った。ところが会議の席では案に相違(そうい)して滔々(とうとう)と生徒厳罰論(げんばつろん)を述べたから、おや変だなと首を捩(ひね)った。萩野(はぎの)の婆(ばあ)さんから、山嵐が、うらなり君のために赤シャツと談判をしたと聞いた時は、それは...

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2009.02.25.[Edit]
うらなり君の送別会のあるという日の朝、学校へ出たら、山嵐(やまあらし)が突然(とつぜん)、君先だってはいか銀が来て、君が乱暴して困るから、どうか出るように話してくれと頼(たの)んだから、真面目(まじめ)に受けて、君に出てやれと話したのだが、あとから聞いてみると、あいつは悪(わ)るい奴(やつ)で、よく偽筆(ぎひつ)へ贋落款(にせらっかん)などを押(お)して売りつけるそうだから、全く君の事も出鱈目(で...

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祝勝会で学校はお休みだ。練兵場(れんぺいば)で式があるというので、狸(たぬき)は生徒を引率して参列しなくてはならない。おれも職員の一人(ひとり)としていっしょにくっついて行くんだ。町へ出ると日の丸だらけで、まぼしいくらいである。学校の生徒は八百人もあるのだから、体操の教師が隊伍(たいご)を整えて、一組一組の間を少しずつ明けて、それへ職員が一人か二人(ふたり)ずつ監督(かんとく)として割り込(こ)む仕掛(しか)けである。仕掛(しかけ)だけはすこぶる巧妙(こうみょう)なものだが、実際はすこぶる不手際である。生徒は小供(こども)の上に、生意気で、規律を破らなくっては生徒の体面にかかわると思ってる奴等(やつら)だから、職員が幾人(いくたり)ついて行ったって何の役に立つもんか。命令も下さないのに勝手な軍歌をうたったり、軍歌をやめるとワーと訳もないのに鬨(とき)の声を揚(あ)げたり、まるで浪人(ろうにん)が町内をねりあるいてるようなものだ。軍歌も鬨の声も揚げない時はがやがや何か喋舌(しゃべ)ってる。喋舌らないでも歩けそうなもんだが、日本人はみな口から先へ生れるのだから、いくら小言を云(い)ったって聞きっこない。喋舌るのもただ喋舌るのではない、教師のわる口を喋舌るんだから、下等だ。おれは宿直事件で生徒を謝罪さして、まあこれならよかろうと思っていた。ところが実際は大違(おおちが)いである。下宿の婆(ばあ)さんの言葉を借りて云えば、正に大違いの勘五郎(かんごろう)である。生徒があやまったのは心(しん)から後悔(こうかい)してあやまったのではない。ただ校長から、命令されて、形式的に頭を下げたのである。商人が頭ばかり下げて、狡(ずる)い事をやめないのと一般で生徒も謝罪だけはするが、いたずらは決してやめるものでない。よく考えてみると世の中はみんなこの生徒のようなものから成立しているかも知れない。人があやまったり詫(わ)びたりするのを、真面目(まじめ)に受けて勘弁するのは正直過ぎる馬鹿(ばか)と云うんだろう。あやまるのも仮りにあやまるので、勘弁するのも仮りに勘弁するのだと思ってれば差(さ)し支(つか)えない。もし本当にあやまらせる気なら、本当に後悔するまで叩(たた)きつけなくてはいけない。

2009.02.26.[Edit]
祝勝会で学校はお休みだ。練兵場(れんぺいば)で式があるというので、狸(たぬき)は生徒を引率して参列しなくてはならない。おれも職員の一人(ひとり)としていっしょにくっついて行くんだ。町へ出ると日の丸だらけで、まぼしいくらいである。学校の生徒は八百人もあるのだから、体操の教師が隊伍(たいご)を整えて、一組一組の間を少しずつ明けて、それへ職員が一人か二人(ふたり)ずつ監督(かんとく)として割り込(こ)む...

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あくる日眼(め)が覚めてみると、身体中(からだじゅう)痛くてたまらない。久しく喧嘩(けんか)をしつけなかったから、こんなに答えるんだろう。これじゃあんまり自慢(じまん)もできないと床(とこ)の中で考えていると、婆(ばあ)さんが四国新聞を持ってきて枕元(まくらもと)へ置いてくれた。実は新聞を見るのも退儀(たいぎ)なんだが、男がこれしきの事に閉口(へこ)たれて仕様があるものかと無理に腹這(はらば)いになって、寝(ね)ながら、二頁を開けてみると驚(おど)ろいた。昨日の喧嘩がちゃんと出ている。喧嘩の出ているのは驚ろかないのだが、中学の教師堀田某(ほったぼう)と、近頃(ちかごろ)東京から赴任(ふにん)した生意気なる某とが、順良なる生徒を使嗾(しそう)してこの騒動(そうどう)を喚起(かんき)せるのみならず、両人は現場にあって生徒を指揮したる上、みだりに師範生に向(むか)って暴行をほしいままにしたりと書いて、次にこんな意見が附記(ふき)してある。本県の中学は昔時(せきじ)より善良温順の気風をもって全国の羨望(せんぼう)するところなりしが、軽薄(けいはく)なる二豎子(じゅし)のために吾校(わがこう)の特権を毀損(きそん)せられて、この不面目を全市に受けたる以上は、吾人(ごじん)は奮然(ふんぜん)として起(た)ってその責任を問わざるを得ず。吾人は信ず、吾人が手を下す前に、当局者は相当の処分をこの無頼漢(ぶらいかん)の上に加えて、彼等(かれら)をして再び教育界に足を入るる余地なからしむる事を。そうして一字ごとにみんな黒点を加えて、お灸(きゅう)を据(す)えたつもりでいる。おれは床の中で、糞(くそ)でも喰(く)らえと云(い)いながら、むっくり飛び起きた。不思議な事に今まで身体の関節(ふしぶし)が非常に痛かったのが、飛び起きると同時に忘れたように軽くなった。

十一

2009.02.26.[Edit]
あくる日眼(め)が覚めてみると、身体中(からだじゅう)痛くてたまらない。久しく喧嘩(けんか)をしつけなかったから、こんなに答えるんだろう。これじゃあんまり自慢(じまん)もできないと床(とこ)の中で考えていると、婆(ばあ)さんが四国新聞を持ってきて枕元(まくらもと)へ置いてくれた。実は新聞を見るのも退儀(たいぎ)なんだが、男がこれしきの事に閉口(へこ)たれて仕様があるものかと無理に腹這(はらば)いに...

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作家データ

2009.02.26.[Edit]
分類: 著者 作家名: 夏目 漱石 作家名読み: なつめ そうせき ローマ字表記: Natsume, Soseki 生年: 1867-02-09 没年: 1916-12-09 人物について: 慶応3年1月5日(新暦2月9日)江戸牛込馬場下横町に生まれる。本名は夏目金之助。帝国大学文科大学(東京大学文学部)を卒業後、東京高等師範学校、松山中学、第五高等学校などの教師生活を経て、1900年イギリスに留学する。帰国後、第一高等学校で教鞭をとりながら、1905年処女...

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雪の女王
SNEDRONNINGEN
七つのお話でできているおとぎ物語
ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
楠山正雄訳  出典: 青空文庫
底本:「新訳アンデルセン童話集 第二巻」同和春秋社
作品名: 銀河鉄道の夜
作品名読み: ぎんがてつどうのよる
著者名: 宮沢 賢治  出典: 青空文庫
底本: 新編 銀河鉄道の夜
出版社: 新潮文庫、新潮社
作品名: 坊っちゃん
作品名読み: ぼっちゃん
著者名: 夏目 漱石  出典: 青空文庫
底本: ちくま日本文学全集 夏目漱石
出版社: 筑摩書房
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少年時代から無鉄砲な江戸っ子の坊っちゃんと、肉親から疎んじられる彼に無償の愛を注ぐ女中である清の描写から『坊っちゃん』の物語は幕を開く。

坊っちゃんは両親と死別後、清とも離れ、四国の旧制中学校に数学の教師として赴任する。着任早々、校長には狸、教頭には赤シャツ、画学の教師には野だいこ、英語の教師にはうらなり、数学の主任教師には山嵐と、それぞれにあだ名を付けた。

坊っちゃんは授業の時に生徒達から、てんぷらそばを四杯食べた件等の私事について執拗に冷やかされる。また初めての宿直の夜には、寄宿生達から蒲団の中に大量のバッタ(厳密にはイナゴ)を入れられる等の嫌がらせを受け、激怒して、何としても犯人を突き止めようとしたため、大事になってしまう。

坊っちゃんは赤シャツとその腰巾着である野だいこから、生徒による嫌がらせは山嵐の扇動によるものであると婉曲的に吹き込まれ、一時は真に受けてしまう。しかし、後日の職員会議において、先の寄宿生の不祥事に坊っちゃんが毅然とした措置を主張したところ、狸をはじめとする事なかれ主義の職員達は取り合ってくれなかったのに対し、山嵐だけが坊っちゃんを支持してくれた。お互いに対する誤解は解けていき、坊っちゃんと山嵐とは、かえって強い友情で結ばれるようになる。

うらなりには、マドンナとあだ名される婚約者がいたが、赤シャツがマドンナへの横恋慕から、お人好しのうらなりを体良く延岡に左遷したという事実を知り、坊っちゃんは義憤にかられる。実は山嵐も、赤シャツの横恋慕を糾弾したため、逆恨みされていたのであった。

日露戦争の祝勝会の日に、坊っちゃんと山嵐は赤シャツの謀略により、中学校と師範学校の生徒同士の乱闘騒ぎに巻き込まれた上、いわれ無き生徒扇動の罪を着せられ、山嵐が辞職に追い込まれる。卑劣な仕打ちに憤激した坊っちゃんと山嵐は、赤シャツと野だいこの不祥事を暴くための監視を始め、ついに芸者遊び帰りの赤シャツと野だいこを取り押さえる。そして芸者遊びについて詰問するも、しらを切られたため、業を煮やし、激しく暴行を加えた。

即刻辞職した坊っちゃんは、帰郷後、街鉄(現在の都電)の技手となって、再び、清と同居生活を始めるが、清が亡くなり、遺言通り小日向の養源寺に葬った事を記して、『坊っちゃん』の物語は幕を閉じる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
あらすじ
»»  2009.02.25.
[Edit]* Novel 長篇 完結 日本 
作品名: 坊っちゃん
作品名読み: ぼっちゃん
著者名: 夏目 漱石 
出典: 
青空文庫


 親譲(おやゆず)りの無鉄砲(むてっぽう)で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰(こし)を抜(ぬ)かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談(じょうだん)に、いくら威張(いば)っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃(はや)したからである。小使(こづかい)に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼(め)をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴(やつ)があるかと云(い)ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

 親類のものから西洋製のナイフを貰(もら)って奇麗(きれい)な刃(は)を日に翳(かざ)して、友達(ともだち)に見せていたら、一人が光る事は光るが切れそうもないと云った。切れぬ事があるか、何でも切ってみせると受け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲(こう)をはすに切り込(こ)んだ。幸(さいわい)ナイフが小さいのと、親指の骨が堅(かた)かったので、今だに親指は手に付いている。しかし創痕(きずあと)は死ぬまで消えぬ。
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ぶうと云(い)って汽船がとまると、艀(はしけ)が岸を離(はな)れて、漕(こ)ぎ寄せて来た。船頭は真(ま)っ裸(ぱだか)に赤ふんどしをしめている。野蛮(やばん)な所だ。もっともこの熱さでは着物はきられまい。日が強いので水がやに光る。見つめていても眼(め)がくらむ。事務員に聞いてみるとおれはここへ降りるのだそうだ。見るところでは大森(おおもり)ぐらいな漁村だ。人を馬鹿(ばか)にしていらあ、こんな所に我慢(がまん)が出来るものかと思ったが仕方がない。威勢(いせい)よく一番に飛び込んだ。続(つ)づいて五六人は乗ったろう。外に大きな箱(はこ)を四つばかり積み込んで赤ふんは岸へ漕ぎ戻(もど)して来た。陸(おか)へ着いた時も、いの一番に飛び上がって、いきなり、磯(いそ)に立っていた鼻たれ小僧(こぞう)をつらまえて中学校はどこだと聞いた。小僧はぼんやりして、知らんがの、と云った。気の利かぬ田舎(いなか)ものだ。猫(ねこ)の額ほどな町内の癖(くせ)に、中学校のありかも知らぬ奴(やつ)があるものか。ところへ妙(みょう)な筒(つつ)っぽうを着た男がきて、こっちへ来いと云うから、尾(つ)いて行ったら、港屋とか云う宿屋へ連れて来た。やな女が声を揃(そろ)えてお上がりなさいと云うので、上がるのがいやになった。門口へ立ったなり中学校を教えろと云ったら、中学校はこれから汽車で二里ばかり行かなくっちゃいけないと聞いて、なお上がるのがいやになった。おれは、筒っぽうを着た男から、おれの革鞄(かばん)を二つ引きたくって、のそのそあるき出した。宿屋のものは変な顔をしていた。
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学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。但(ただ)し狸(たぬき)と赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の義務を免(まぬ)かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇(そうにんたいぐう)だからと云う。面白くもない。月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃(の)がれるなんて不公平があるものか。勝手な規則をこしらえて、それが当(あた)り前(まえ)だというような顔をしている。よくまああんなにずうずうしく出来るものだ。これについては大分不平であるが、山嵐(やまあらし)の説によると、いくら一人(ひとり)で不平を並(なら)べたって通るものじゃないそうだ。一人だって二人(ふたり)だって正しい事なら通りそうなものだ。山嵐は might is right という英語を引いて説諭(せつゆ)を加えたが、何だか要領を得ないから、聞き返してみたら強者の権利と云う意味だそうだ。強者の権利ぐらいなら昔(むかし)から知っている。今さら山嵐から講釈をきかなくってもいい。強者の権利と宿直とは別問題だ。狸や赤シャツが強者だなんて、誰(だれ)が承知するものか。議論は議論としてこの宿直がいよいよおれの番に廻(まわ)って来た。一体疳性(かんしょう)だから夜具蒲団(やぐふとん)などは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。小供の時から、友達のうちへ泊(とま)った事はほとんどないくらいだ。友達のうちでさえ厭(いや)なら学校の宿直はなおさら厭だ。厭だけれども、これが四十円のうちへ籠(こも)っているなら仕方がない。我慢(がまん)して勤めてやろう。
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君釣(つ)りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。赤シャツは気味の悪(わ)るいように優しい声を出す男である。まるで男だか女だか分(わか)りゃしない。男なら男らしい声を出すもんだ。ことに大学卒業生じゃないか。物理学校でさえおれくらいな声が出るのに、文学士がこれじゃ見っともない。

 おれはそうですなあと少し進まない返事をしたら、君釣をした事がありますかと失敬な事を聞く。あんまりないが、子供の時、小梅(こうめ)の釣堀(つりぼり)で鮒(ふな)を三匹(びき)釣った事がある。それから神楽坂(かぐらざか)の毘沙門(びしゃもん)の縁日(えんにち)で八寸ばかりの鯉(こい)を針で引っかけて、しめたと思ったら、ぽちゃりと落としてしまったがこれは今考えても惜(お)しいと云(い)ったら、赤シャツは顋(あご)を前の方へ突(つ)き出してホホホホと笑った。何もそう気取って笑わなくっても、よさそうな者だ。「それじゃ、まだ釣りの味は分らんですな。お望みならちと伝授しましょう」とすこぶる得意である。だれがご伝授をうけるものか。一体釣や猟(りょう)をする連中はみんな不人情な人間ばかりだ。不人情でなくって、殺生(せっしょう)をして喜ぶ訳がない。魚だって、鳥だって殺されるより生きてる方が楽に極(き)まってる。釣や猟をしなくっちゃ活計(かっけい)がたたないなら格別だが、何不足なく暮(くら)している上に、生き物を殺さなくっちゃ寝られないなんて贅沢(ぜいたく)な話だ。こう思ったが向(むこ)うは文学士だけに口が達者だから、議論じゃ叶(かな)わないと思って、だまってた。すると先生このおれを降参させたと疳違(かんちが)いして、早速伝授しましょう。おひまなら、今日どうです、いっしょに行っちゃ。吉川(よしかわ)君と二人(ふたり)ぎりじゃ、淋(さむ)しいから、来たまえとしきりに勧める。吉川君というのは画学の教師で例の野だいこの事だ。この野だは、どういう了見(りょうけん)だか、赤シャツのうちへ朝夕出入(でいり)して、どこへでも随行(ずいこう)して行(ゆ)く。まるで同輩(どうはい)じゃない。主従(しゅうじゅう)みたようだ。赤シャツの行く所なら、野だは必ず行くに極(きま)っているんだから、今さら驚(おど)ろきもしないが、二人で行けば済むところを、なんで無愛想(ぶあいそ)のおれへ口を掛(か)けたんだろう。大方高慢(こうまん)ちきな釣道楽で、自分の釣るところをおれに見せびらかすつもりかなんかで誘(さそ)ったに違いない。そんな事で見せびらかされるおれじゃない。鮪(まぐろ)の二匹や三匹釣ったって、びくともするもんか。おれだって人間だ、いくら下手(へた)だって糸さえ卸(おろ)しゃ、何かかかるだろう、ここでおれが行かないと、赤シャツの事だから、下手だから行かないんだ、嫌(きら)いだから行かないんじゃないと邪推(じゃすい)するに相違(そうい)ない。おれはこう考えたから、行きましょうと答えた。それから、学校をしまって、一応うちへ帰って、支度(したく)を整えて、停車場で赤シャツと野だを待ち合せて浜(はま)へ行った。船頭は一人(ひとり)で、船(ふね)は細長い東京辺では見た事もない恰好(かっこう)である。さっきから船中見渡(みわた)すが釣竿(つりざお)が一本も見えない。釣竿なしで釣が出来るものか、どうする了見だろうと、野だに聞くと、沖釣(おきづり)には竿は用いません、糸だけでげすと顋を撫(な)でて黒人(くろうと)じみた事を云った。こう遣(や)り込(こ)められるくらいならだまっていればよかった。
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野だは大嫌(だいきら)いだ。こんな奴(やつ)は沢庵石(たくあんいし)をつけて海の底へ沈(しず)めちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目(だめ)だ。惚(ほ)れるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云(い)う。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐(やまあらし)がよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪(わ)るい教師なら、早く免職(めんしょく)さしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖(くせ)に意気地(いくじ)のないもんだ。蔭口(かげぐち)をきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極(き)まってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違(ちが)う。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢(わるもの)だなんて、人を馬鹿(ばか)にしている。大方田舎(いなか)だから万事東京のさかに行くんだろう。物騒(ぶっそう)な所だ。今に火事が氷って、石が豆腐(とうふ)になるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵(たいてい)の事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻(まわ)りくどい事をしないでも、じかにおれを捕(つら)まえて喧嘩(けんか)を吹き懸(か)けりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔(じゃま)になるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向(むこ)うの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果(はて)へ行ったって、のたれ死(じに)はしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
»»  2009.02.25.
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おれは即夜(そくや)下宿を引き払(はら)った。宿へ帰って荷物をまとめていると、女房(にょうぼう)が何か不都合(ふつごう)でもございましたか、お腹の立つ事があるなら、云(い)っておくれたら改めますと云う。どうも驚(おど)ろく。世の中にはどうして、こんな要領を得ない者ばかり揃(そろ)ってるんだろう。出てもらいたいんだか、居てもらいたいんだか分(わか)りゃしない。まるで気狂(きちがい)だ。こんな者を相手に喧嘩(けんか)をしたって江戸(えど)っ子の名折れだから、車屋をつれて来てさっさと出てきた。

 出た事は出たが、どこへ行くというあてもない。車屋が、どちらへ参りますと云うから、だまって尾(つ)いて来い、今にわかる、と云って、すたすたやって来た。面倒(めんどう)だから山城屋へ行こうかとも考えたが、また出なければならないから、つまり手数だ。こうして歩いてるうちには下宿とか、何とか看板のあるうちを目付け出すだろう。そうしたら、そこが天意に叶(かな)ったわが宿と云う事にしよう。とぐるぐる、閑静(かんせい)で住みよさそうな所をあるいているうち、とうとう鍛冶屋町(かじやちょう)へ出てしまった。ここは士族屋敷(やしき)で下宿屋などのある町ではないから、もっと賑(にぎ)やかな方へ引き返そうかとも思ったが、ふといい事を考え付いた。おれが敬愛するうらなり君はこの町内に住んでいる。うらなり君は土地の人で先祖代々の屋敷を控(ひか)えているくらいだから、この辺の事情には通じているに相違(そうい)ない。あの人を尋(たず)ねて聞いたら、よさそうな下宿を教えてくれるかも知れない。幸(さいわい)一度挨拶(あいさつ)に来て勝手は知ってるから、捜(さ)がしてあるく面倒はない。ここだろうと、いい加減に見当をつけて、ご免(めん)ご免と二返ばかり云うと、奥(おく)から五十ぐらいな年寄(としより)が古風な紙燭(しそく)をつけて、出て来た。おれは若い女も嫌(きら)いではないが、年寄を見ると何だかなつかしい心持ちがする。大方清(きよ)がすきだから、その魂(たましい)が方々のお婆(ばあ)さんに乗り移るんだろう。これは大方うらなり君のおっ母(か)さんだろう。切り下げの品格のある婦人だが、よくうらなり君に似ている。まあお上がりと云うところを、ちょっとお目にかかりたいからと、主人を玄関(げんかん)まで呼び出して実はこれこれだが君どこか心当りはありませんかと尋ねてみた。うらなり先生それはさぞお困りでございましょう、としばらく考えていたが、この裏町に萩野(はぎの)と云って老人夫婦ぎりで暮(く)らしているものがある、いつぞや座敷(ざしき)を明けておいても無駄(むだ)だから、たしかな人があるなら貸してもいいから周旋(しゅうせん)してくれと頼(たの)んだ事がある。今でも貸すかどうか分らんが、まあいっしょに行って聞いてみましょうと、親切に連れて行ってくれた。
»»  2009.02.25.
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赤シャツに勧められて釣(つり)に行った帰りから、山嵐(やまあらし)を疑ぐり出した。無い事を種に下宿を出ろと云われた時は、いよいよ不埒(ふらち)な奴(やつ)だと思った。ところが会議の席では案に相違(そうい)して滔々(とうとう)と生徒厳罰論(げんばつろん)を述べたから、おや変だなと首を捩(ひね)った。萩野(はぎの)の婆(ばあ)さんから、山嵐が、うらなり君のために赤シャツと談判をしたと聞いた時は、それは感心だと手を拍(う)った。この様子ではわる者は山嵐じゃあるまい、赤シャツの方が曲ってるんで、好加減(いいかげん)な邪推(じゃすい)を実(まこと)しやかに、しかも遠廻(とおまわ)しに、おれの頭の中へ浸(し)み込(こ)ましたのではあるまいかと迷ってる矢先へ、野芹川(のぜりがわ)の土手で、マドンナを連れて散歩なんかしている姿を見たから、それ以来赤シャツは曲者(くせもの)だと極(き)めてしまった。曲者だか何だかよくは分(わか)らないが、ともかくも善(い)い男じゃない。表と裏とは違(ちが)った男だ。人間は竹のように真直(まっすぐ)でなくっちゃ頼(たの)もしくない。真直なものは喧嘩(けんか)をしても心持ちがいい。赤シャツのようなやさしいのと、親切なのと、高尚(こうしょう)なのと、琥珀(こはく)のパイプとを自慢(じまん)そうに見せびらかすのは油断が出来ない、めったに喧嘩も出来ないと思った。喧嘩をしても、回向院(えこういん)の相撲(すもう)のような心持ちのいい喧嘩は出来ないと思った。そうなると一銭五厘の出入(でいり)で控所(ひかえじょ)全体を驚(おど)ろかした議論の相手の山嵐の方がはるかに人間らしい。会議の時に金壺眼(かなつぼまなこ)をぐりつかせて、おれを睨(にら)めた時は憎(にく)い奴だと思ったが、あとで考えると、それも赤シャツのねちねちした猫撫声(ねこなでごえ)よりはましだ。実はあの会議が済んだあとで、よっぽど仲直りをしようかと思って、一こと二こと話しかけてみたが、野郎(やろう)返事もしないで、まだ眼(め)を剥(むく)ってみせたから、こっちも腹が立ってそのままにしておいた。
»»  2009.02.25.
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祝勝会で学校はお休みだ。練兵場(れんぺいば)で式があるというので、狸(たぬき)は生徒を引率して参列しなくてはならない。おれも職員の一人(ひとり)としていっしょにくっついて行くんだ。町へ出ると日の丸だらけで、まぼしいくらいである。学校の生徒は八百人もあるのだから、体操の教師が隊伍(たいご)を整えて、一組一組の間を少しずつ明けて、それへ職員が一人か二人(ふたり)ずつ監督(かんとく)として割り込(こ)む仕掛(しか)けである。仕掛(しかけ)だけはすこぶる巧妙(こうみょう)なものだが、実際はすこぶる不手際である。生徒は小供(こども)の上に、生意気で、規律を破らなくっては生徒の体面にかかわると思ってる奴等(やつら)だから、職員が幾人(いくたり)ついて行ったって何の役に立つもんか。命令も下さないのに勝手な軍歌をうたったり、軍歌をやめるとワーと訳もないのに鬨(とき)の声を揚(あ)げたり、まるで浪人(ろうにん)が町内をねりあるいてるようなものだ。軍歌も鬨の声も揚げない時はがやがや何か喋舌(しゃべ)ってる。喋舌らないでも歩けそうなもんだが、日本人はみな口から先へ生れるのだから、いくら小言を云(い)ったって聞きっこない。喋舌るのもただ喋舌るのではない、教師のわる口を喋舌るんだから、下等だ。おれは宿直事件で生徒を謝罪さして、まあこれならよかろうと思っていた。ところが実際は大違(おおちが)いである。下宿の婆(ばあ)さんの言葉を借りて云えば、正に大違いの勘五郎(かんごろう)である。生徒があやまったのは心(しん)から後悔(こうかい)してあやまったのではない。ただ校長から、命令されて、形式的に頭を下げたのである。商人が頭ばかり下げて、狡(ずる)い事をやめないのと一般で生徒も謝罪だけはするが、いたずらは決してやめるものでない。よく考えてみると世の中はみんなこの生徒のようなものから成立しているかも知れない。人があやまったり詫(わ)びたりするのを、真面目(まじめ)に受けて勘弁するのは正直過ぎる馬鹿(ばか)と云うんだろう。あやまるのも仮りにあやまるので、勘弁するのも仮りに勘弁するのだと思ってれば差(さ)し支(つか)えない。もし本当にあやまらせる気なら、本当に後悔するまで叩(たた)きつけなくてはいけない。
»»  2009.02.26.
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あくる日眼(め)が覚めてみると、身体中(からだじゅう)痛くてたまらない。久しく喧嘩(けんか)をしつけなかったから、こんなに答えるんだろう。これじゃあんまり自慢(じまん)もできないと床(とこ)の中で考えていると、婆(ばあ)さんが四国新聞を持ってきて枕元(まくらもと)へ置いてくれた。実は新聞を見るのも退儀(たいぎ)なんだが、男がこれしきの事に閉口(へこ)たれて仕様があるものかと無理に腹這(はらば)いになって、寝(ね)ながら、二頁を開けてみると驚(おど)ろいた。昨日の喧嘩がちゃんと出ている。喧嘩の出ているのは驚ろかないのだが、中学の教師堀田某(ほったぼう)と、近頃(ちかごろ)東京から赴任(ふにん)した生意気なる某とが、順良なる生徒を使嗾(しそう)してこの騒動(そうどう)を喚起(かんき)せるのみならず、両人は現場にあって生徒を指揮したる上、みだりに師範生に向(むか)って暴行をほしいままにしたりと書いて、次にこんな意見が附記(ふき)してある。本県の中学は昔時(せきじ)より善良温順の気風をもって全国の羨望(せんぼう)するところなりしが、軽薄(けいはく)なる二豎子(じゅし)のために吾校(わがこう)の特権を毀損(きそん)せられて、この不面目を全市に受けたる以上は、吾人(ごじん)は奮然(ふんぜん)として起(た)ってその責任を問わざるを得ず。吾人は信ず、吾人が手を下す前に、当局者は相当の処分をこの無頼漢(ぶらいかん)の上に加えて、彼等(かれら)をして再び教育界に足を入るる余地なからしむる事を。そうして一字ごとにみんな黒点を加えて、お灸(きゅう)を据(す)えたつもりでいる。おれは床の中で、糞(くそ)でも喰(く)らえと云(い)いながら、むっくり飛び起きた。不思議な事に今まで身体の関節(ふしぶし)が非常に痛かったのが、飛び起きると同時に忘れたように軽くなった。
十一
»»  2009.02.26.
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