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幸福の王子(夢小説サンプル) 

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Index ~作品もくじ~


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幸福の王子
The Happy Prince
オスカー・ワイルド作
結城浩訳
出典: 青空文庫

町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。幸福の王子の像は全体を薄い純金で覆われ、目は二つの輝くサファイアで、幸福の王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。

幸福の王子は皆の自慢でした。「風見鶏と同じくらいに美しい」と、芸術的なセンスがあるという評判を得たがっている一人の市会議員が言いました。「もっとも風見鶏ほど便利じゃないがね」と付け加えて言いました。これは夢想家だと思われないように、と心配したからです。実際には彼は夢想家なんかじゃなかったのですが。

「どうしてあの幸福の王子みたいにちゃんとできないの」月が欲しいと泣いている幼い男の子に、賢明なお母さんが聞きました。「幸福の王子は決して何かを欲しがって泣いたりしないのよ」

「この世界の中にも、本当に幸福な人がいる、というのはうれしいことだ」失望した男が、この素晴らしい像を見つめてつぶやきました。

「天使のようだね」と、明るい赤のマントときれいな白い袖なしドレスを来た養育院の子供たちが聖堂から出てきて言いました。

「どうしてそのようなことがわかるのかね」と数学教師がいいました。「天使など見たことがないのに」

「ああ、でも見たことはありますよ。夢の中で」と子供たちは答えました。すると数学教師は眉をひそめてとても厳しい顔つきをしました。というのは彼は子供たちが夢を見ることはよろしくないと考えていたからです。

ある晩、その町に小さなツバメが飛んできました。友達らはすでに六週間前にエジプトに出発していましたが、そのツバメは残っていました。彼は最高にきれいな葦に恋をしていたからです。ツバメが彼女に出会ったのは春のはじめ、大きくて黄色い蛾を追って川の下流へ向かって飛んでいたときでした。葦のすらっとした腰があまりにも魅力的だったので、ツバメは立ち止まって彼女に話しかけたのです。

「君を好きになってもいいかい」とツバメは言いました。ツバメは単刀直入に話すのが好きでした。葦は深くうなずきました。そこでツバメは、翼で水に触れながら彼女の周りをぐるぐると回り、銀色のさざなみを立てました。これはツバメからのラブコールで、それは夏中続きました。

「彼女はおかしな恋人だね」と他のツバメたちがぺちゃぺちゃ言いました。「財産はないくせに、親戚は多すぎるときてる」実際、その川は葦でいっぱいだったのです。やがて、秋が来るとそのツバメたちもみんな飛んでいってしまいました。

みんなが行ってしまうと、ツバメはさびしくなり、自分の恋人にも飽き始めました。「彼女は何も話してくれないしな」ツバメは言いました。「それに浮気っぽいんじゃないかと思うんだ。だって彼女はいつも風といちゃついてるんだから」確かに、風が吹くといつも、葦は最高に優美なおじぎをするのでした。「彼女は家庭的なのは認めるけれど」とツバメは続けました。「でも、僕は旅をするのが好きなんだから、僕の妻たるものも、旅をするのが好きでなくっちゃ」

とうとうツバメは「僕と一緒に行ってくれないか」と彼女に言いました。でも葦は首を横に振りました。彼女は自分の家にとても愛着があったのです。

「君は僕のことをもてあそんでいたんだな」とツバメは叫びました。「僕はピラミッドに出発するよ。じゃあね」ツバメは飛び去りました。
幸福の王子 1
»»  2010.08.01.
* Novel 完結 ファンタジー 

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幸福の王子の両眼は涙でいっぱいになっていました。そしてその涙は幸福の王子の黄金の頬を流れていたのです。幸福の王子の顔は月光の中でとても美しく、小さなツバメはかわいそうな気持ちでいっぱいになりました。

「あなたはどなたですか」ツバメは尋ねました。

「私は幸福の王子だ」

「それなら、どうして泣いているんですか」とツバメは尋ねました。「もう僕はぐしょぬれですよ」

「まだ私が生きていて、人間の心を持っていたときのことだった」と像は答えました。「私は涙というものがどんなものかを知らなかった。というのは私はサンスーシの宮殿に住んでいて、そこには悲しみが入り込むことはなかったからだ。昼間は友人たちと庭園で遊び、夜になると大広間で先頭切ってダンスを踊ったのだ。庭園の周りにはとても高い塀がめぐらされていて、私は一度もその向こうに何があるのかを気にかけたことがなかった。周りには、非常に美しいものしかなかった。廷臣たちは私を幸福の王子と呼んだ。実際、幸福だったのだ、もしも快楽が幸福だというならば。私は幸福に生き、幸福に死んだ。死んでから、人々は私をこの高い場所に置いた。ここからは町のすべての醜悪なこと、すべての悲惨なことが見える。私の心臓は鉛でできているけれど、泣かずにはいられないのだ」

「何だって! この幸福の王子は中まで金でできているんじゃないのか」とツバメは心の中で思いました。けれどツバメは礼儀正しかったので、個人的な意見は声に出しませんでした。

「ずっと向こうの」と、幸福の王子の像は低く調子のよい声で続けました。「ずっと向こうの小さな通りに貧しい家がある。窓が一つ開いていて、テーブルについたご婦人が見える。顔はやせこけ、疲れている。彼女の手は荒れ、縫い針で傷ついて赤くなっている。彼女はお針子をしているのだ。その婦人はトケイソウ〔訳注:(passion-flower)この花の副花冠はキリストのいばらの冠に似ているという〕の花をサテンのガウンに刺繍しようとしている。そのガウンは女王様の一番可愛い侍女のためのもので、次の舞踏会に着ることになっているのだ。その部屋の隅のベッドでは、幼い息子が病のために横になっている。熱があって、オレンジが食べたいと言っている。母親が与えられるものは川の水だけなので、その子は泣いている。ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん。私の剣のつかからルビーを取り出して、あの婦人にあげてくれないか。両足がこの台座に固定されているから、私は行けないのだ」

「私はエジプトに行きたいんです」とツバメは言いました。「友人たちはナイル川に沿って飛びまわったり、大きな蓮の花に話しかけたりしています。まもなく、みんなは偉大な王の墓の中で眠ります。王もまた、そこの彩られた棺の中にいます。王は黄色の亜麻布で包まれ、香料を使ってミイラになっています。首には青緑色の翡翠の首飾りがかけられ、王の両手はまるでしおれた葉のようなんですよ」

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「もう一晩泊まって、私のお使いをしてくれないか。あの子はとても喉が乾いていて、お母さんはとても悲しんでいるのだよ」

「私は男の子が好きじゃないんです」とツバメは答えました。「去年の夏、川のほとりにいたとき、二人の乱暴な男の子がおりました。粉引きの息子たちで、二人はいつも僕に石を投げつけました。もちろん一回も当たりませんでしたよ。僕たちツバメはそういうときにはとてもうまく飛びますし、その上、僕は機敏さで有名な家系の出ですから。でも、石を投げてくるっていうのは失礼な証拠ですよね」

でも、幸福の王子がとても悲しそうな顔をしましたので、小さなツバメもすまない気持ちになりました。「ここはとても寒いですね」とツバメは言いました。「でも、あなたのところに一晩泊まって、あなたのお使いをいたしましょう」

「ありがとう、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。

そこでツバメ幸福の王子の剣から大きなルビーを取り出すと、くちばしにくわえ、町の屋根を飛び越えて出かけました。
幸福の王子 2
»»  2010.08.01.

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次の日、ツバメは波止場へ行きました。大きな船のマストの上にとまり、水夫たちが大きな箱を船倉からロープで引きずり出すのを見ました。箱が一つ出るたびに「よいこらせ!」と水夫たちは叫びました。「僕はエジプトに行くんだよ!」とツバメも大声を出しましたが、誰も気にしませんでした。月が出るとツバメ幸福の王子のところに戻りました。

「おいとまごいにやってきました」ツバメは声をあげました。

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「もう一晩泊まってくれませんか」

「もう冬です」ツバメは答えました。「冷たい雪がまもなくここにも降るでしょう。エジプトでは太陽の光が緑のシュロの木に温かく注ぎ、ワニたちは泥の中に寝そべってのんびり過ごしています。友人たちは、バールベック寺院の中に巣を作っており、ピンクと白のハトがそれを見て、クークーと鳴き交わしています。幸福の王子様。僕は行かなくちゃなりません。あなたのことは決して忘れません。来年の春、僕はあなたがあげてしまった宝石二つの代わりに、美しい宝石を二つ持って帰ってきます。ルビーは赤いバラよりも赤く、サファイアは大海のように青いものになるでしょう」

「下のほうに広場がある」と幸福の王子は言いました。「そこに小さなマッチ売りの少女がいる。マッチを溝に落としてしまい、全部駄目になってしまった。お金を持って帰れなかったら、お父さんが女の子をぶつだろう。だから女の子は泣いている。あの子は靴も靴下もはいていないし、何も頭にかぶっていない。私の残っている目を取り出して、あの子にやってほしい。そうすればお父さんからぶたれないだろう」

「もう一晩、あなたのところに泊まりましょう」ツバメは言いました。「でも、あなたの目を取り出すなんてできません。そんなことをしたら、あなたは何も見えなくなってしまいます」

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「私が命じたとおりにしておくれ」

そこでツバメ幸福の王子のもう片方の目を取り出して、下へ飛んでいきました。ツバメはマッチ売りの少女のところまでさっと降りて、宝石を手の中に滑り込ませました。「とってもきれいなガラス玉!」その少女は言いました。そして笑いながら走って家に帰りました。

それからツバメ幸福の王子のところに戻りました。「あなたはもう何も見えなくなりました」とツバメは言いました。「だから、ずっとあなたと一緒にいることにします」

「いや、小さなツバメさん」とかわいそうな幸福の王子は言いました。「あなたはエジプトに行かなくちゃいけない」

「僕はずっとあなたと一緒にいます」ツバメは言いました。そして幸福の王子の足元で眠りました。

次の日一日、ツバメ幸福の王子の肩に止まり、珍しい土地で見てきたたくさんの話をしました。ナイル川の岸沿いに長い列をなして立っていて、くちばしで黄金の魚を捕まえる赤いトキの話。世界と同じくらい古くからあり、砂漠の中に住んでいて、何でも知っているスフィンクスの話。琥珀のロザリオを手にして、ラクダの傍らをゆっくり歩く貿易商人の話。黒檀のように黒い肌をしており、大きな水晶を崇拝している月の山の王の話。シュロの木で眠る緑の大蛇がいて、二十人の僧侶が蜂蜜のお菓子を食べさせている話。広く平らな葉に乗って大きな湖を渡り、蝶といつも戦争しているピグミーの話。

「可愛い小さなツバメさん」幸福の王子は言いました。「あなたは驚くべきことを聞かせてくれた。しかし、苦しみを受けている人々の話ほど驚くべきことはない。度しがたい悲しみ以上に解きがたい謎はないのだ。小さなツバメさん、町へ行っておくれ。そしてあなたの見たものを私に教えておくれ」
幸福の王子 3
»»  2010.08.01.

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The Happy Prince
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町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。幸福の王子の像は全体を薄い純金で覆われ、目は二つの輝くサファイアで、幸福の王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。

幸福の王子は皆の自慢でした。「風見鶏と同じくらいに美しい」と、芸術的なセンスがあるという評判を得たがっている一人の市会議員が言いました。「もっとも風見鶏ほど便利じゃないがね」と付け加えて言いました。これは夢想家だと思われないように、と心配したからです。実際には彼は夢想家なんかじゃなかったのですが。

「どうしてあの幸福の王子みたいにちゃんとできないの」月が欲しいと泣いている幼い男の子に、賢明なお母さんが聞きました。「幸福の王子は決して何かを欲しがって泣いたりしないのよ」

「この世界の中にも、本当に幸福な人がいる、というのはうれしいことだ」失望した男が、この素晴らしい像を見つめてつぶやきました。

「天使のようだね」と、明るい赤のマントときれいな白い袖なしドレスを来た養育院の子供たちが聖堂から出てきて言いました。

「どうしてそのようなことがわかるのかね」と数学教師がいいました。「天使など見たことがないのに」

「ああ、でも見たことはありますよ。夢の中で」と子供たちは答えました。すると数学教師は眉をひそめてとても厳しい顔つきをしました。というのは彼は子供たちが夢を見ることはよろしくないと考えていたからです。

ある晩、その町に小さなツバメが飛んできました。友達らはすでに六週間前にエジプトに出発していましたが、そのツバメは残っていました。彼は最高にきれいな葦に恋をしていたからです。ツバメが彼女に出会ったのは春のはじめ、大きくて黄色い蛾を追って川の下流へ向かって飛んでいたときでした。葦のすらっとした腰があまりにも魅力的だったので、ツバメは立ち止まって彼女に話しかけたのです。

「君を好きになってもいいかい」とツバメは言いました。ツバメは単刀直入に話すのが好きでした。葦は深くうなずきました。そこでツバメは、翼で水に触れながら彼女の周りをぐるぐると回り、銀色のさざなみを立てました。これはツバメからのラブコールで、それは夏中続きました。

「彼女はおかしな恋人だね」と他のツバメたちがぺちゃぺちゃ言いました。「財産はないくせに、親戚は多すぎるときてる」実際、その川は葦でいっぱいだったのです。やがて、秋が来るとそのツバメたちもみんな飛んでいってしまいました。

みんなが行ってしまうと、ツバメはさびしくなり、自分の恋人にも飽き始めました。「彼女は何も話してくれないしな」ツバメは言いました。「それに浮気っぽいんじゃないかと思うんだ。だって彼女はいつも風といちゃついてるんだから」確かに、風が吹くといつも、葦は最高に優美なおじぎをするのでした。「彼女は家庭的なのは認めるけれど」とツバメは続けました。「でも、僕は旅をするのが好きなんだから、僕の妻たるものも、旅をするのが好きでなくっちゃ」

とうとうツバメは「僕と一緒に行ってくれないか」と彼女に言いました。でも葦は首を横に振りました。彼女は自分の家にとても愛着があったのです。

「君は僕のことをもてあそんでいたんだな」とツバメは叫びました。「僕はピラミッドに出発するよ。じゃあね」ツバメは飛び去りました。

幸福の王子 1

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「あなたはどなたですか」ツバメは尋ねました。

「私は幸福の王子だ」

「それなら、どうして泣いているんですか」とツバメは尋ねました。「もう僕はぐしょぬれですよ」

「まだ私が生きていて、人間の心を持っていたときのことだった」と像は答えました。「私は涙というものがどんなものかを知らなかった。というのは私はサンスーシの宮殿に住んでいて、そこには悲しみが入り込むことはなかったからだ。昼間は友人たちと庭園で遊び、夜になると大広間で先頭切ってダンスを踊ったのだ。庭園の周りにはとても高い塀がめぐらされていて、私は一度もその向こうに何があるのかを気にかけたことがなかった。周りには、非常に美しいものしかなかった。廷臣たちは私を幸福の王子と呼んだ。実際、幸福だったのだ、もしも快楽が幸福だというならば。私は幸福に生き、幸福に死んだ。死んでから、人々は私をこの高い場所に置いた。ここからは町のすべての醜悪なこと、すべての悲惨なことが見える。私の心臓は鉛でできているけれど、泣かずにはいられないのだ」

「何だって! この幸福の王子は中まで金でできているんじゃないのか」とツバメは心の中で思いました。けれどツバメは礼儀正しかったので、個人的な意見は声に出しませんでした。

「ずっと向こうの」と、幸福の王子の像は低く調子のよい声で続けました。「ずっと向こうの小さな通りに貧しい家がある。窓が一つ開いていて、テーブルについたご婦人が見える。顔はやせこけ、疲れている。彼女の手は荒れ、縫い針で傷ついて赤くなっている。彼女はお針子をしているのだ。その婦人はトケイソウ〔訳注:(passion-flower)この花の副花冠はキリストのいばらの冠に似ているという〕の花をサテンのガウンに刺繍しようとしている。そのガウンは女王様の一番可愛い侍女のためのもので、次の舞踏会に着ることになっているのだ。その部屋の隅のベッドでは、幼い息子が病のために横になっている。熱があって、オレンジが食べたいと言っている。母親が与えられるものは川の水だけなので、その子は泣いている。ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん。私の剣のつかからルビーを取り出して、あの婦人にあげてくれないか。両足がこの台座に固定されているから、私は行けないのだ」

「私はエジプトに行きたいんです」とツバメは言いました。「友人たちはナイル川に沿って飛びまわったり、大きな蓮の花に話しかけたりしています。まもなく、みんなは偉大な王の墓の中で眠ります。王もまた、そこの彩られた棺の中にいます。王は黄色の亜麻布で包まれ、香料を使ってミイラになっています。首には青緑色の翡翠の首飾りがかけられ、王の両手はまるでしおれた葉のようなんですよ」

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「もう一晩泊まって、私のお使いをしてくれないか。あの子はとても喉が乾いていて、お母さんはとても悲しんでいるのだよ」

「私は男の子が好きじゃないんです」とツバメは答えました。「去年の夏、川のほとりにいたとき、二人の乱暴な男の子がおりました。粉引きの息子たちで、二人はいつも僕に石を投げつけました。もちろん一回も当たりませんでしたよ。僕たちツバメはそういうときにはとてもうまく飛びますし、その上、僕は機敏さで有名な家系の出ですから。でも、石を投げてくるっていうのは失礼な証拠ですよね」

でも、幸福の王子がとても悲しそうな顔をしましたので、小さなツバメもすまない気持ちになりました。「ここはとても寒いですね」とツバメは言いました。「でも、あなたのところに一晩泊まって、あなたのお使いをいたしましょう」

「ありがとう、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。

そこでツバメ幸福の王子の剣から大きなルビーを取り出すと、くちばしにくわえ、町の屋根を飛び越えて出かけました。

幸福の王子 2

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「おいとまごいにやってきました」ツバメは声をあげました。

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「もう一晩泊まってくれませんか」

「もう冬です」ツバメは答えました。「冷たい雪がまもなくここにも降るでしょう。エジプトでは太陽の光が緑のシュロの木に温かく注ぎ、ワニたちは泥の中に寝そべってのんびり過ごしています。友人たちは、バールベック寺院の中に巣を作っており、ピンクと白のハトがそれを見て、クークーと鳴き交わしています。幸福の王子様。僕は行かなくちゃなりません。あなたのことは決して忘れません。来年の春、僕はあなたがあげてしまった宝石二つの代わりに、美しい宝石を二つ持って帰ってきます。ルビーは赤いバラよりも赤く、サファイアは大海のように青いものになるでしょう」

「下のほうに広場がある」と幸福の王子は言いました。「そこに小さなマッチ売りの少女がいる。マッチを溝に落としてしまい、全部駄目になってしまった。お金を持って帰れなかったら、お父さんが女の子をぶつだろう。だから女の子は泣いている。あの子は靴も靴下もはいていないし、何も頭にかぶっていない。私の残っている目を取り出して、あの子にやってほしい。そうすればお父さんからぶたれないだろう」

「もう一晩、あなたのところに泊まりましょう」ツバメは言いました。「でも、あなたの目を取り出すなんてできません。そんなことをしたら、あなたは何も見えなくなってしまいます」

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「私が命じたとおりにしておくれ」

そこでツバメ幸福の王子のもう片方の目を取り出して、下へ飛んでいきました。ツバメはマッチ売りの少女のところまでさっと降りて、宝石を手の中に滑り込ませました。「とってもきれいなガラス玉!」その少女は言いました。そして笑いながら走って家に帰りました。

それからツバメ幸福の王子のところに戻りました。「あなたはもう何も見えなくなりました」とツバメは言いました。「だから、ずっとあなたと一緒にいることにします」

「いや、小さなツバメさん」とかわいそうな幸福の王子は言いました。「あなたはエジプトに行かなくちゃいけない」

「僕はずっとあなたと一緒にいます」ツバメは言いました。そして幸福の王子の足元で眠りました。

次の日一日、ツバメ幸福の王子の肩に止まり、珍しい土地で見てきたたくさんの話をしました。ナイル川の岸沿いに長い列をなして立っていて、くちばしで黄金の魚を捕まえる赤いトキの話。世界と同じくらい古くからあり、砂漠の中に住んでいて、何でも知っているスフィンクスの話。琥珀のロザリオを手にして、ラクダの傍らをゆっくり歩く貿易商人の話。黒檀のように黒い肌をしており、大きな水晶を崇拝している月の山の王の話。シュロの木で眠る緑の大蛇がいて、二十人の僧侶が蜂蜜のお菓子を食べさせている話。広く平らな葉に乗って大きな湖を渡り、蝶といつも戦争しているピグミーの話。

「可愛い小さなツバメさん」幸福の王子は言いました。「あなたは驚くべきことを聞かせてくれた。しかし、苦しみを受けている人々の話ほど驚くべきことはない。度しがたい悲しみ以上に解きがたい謎はないのだ。小さなツバメさん、町へ行っておくれ。そしてあなたの見たものを私に教えておくれ」

幸福の王子 3

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雪の女王
SNEDRONNINGEN
七つのお話でできているおとぎ物語
ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
楠山正雄訳  出典: 青空文庫
底本:「新訳アンデルセン童話集 第二巻」同和春秋社
作品名: 銀河鉄道の夜
作品名読み: ぎんがてつどうのよる
著者名: 宮沢 賢治  出典: 青空文庫
底本: 新編 銀河鉄道の夜
出版社: 新潮文庫、新潮社
作品名: 坊っちゃん
作品名読み: ぼっちゃん
著者名: 夏目 漱石  出典: 青空文庫
底本: ちくま日本文学全集 夏目漱石
出版社: 筑摩書房
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幸福の王子
The Happy Prince
オスカー・ワイルド作
結城浩訳
出典: 青空文庫

町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。幸福の王子の像は全体を薄い純金で覆われ、目は二つの輝くサファイアで、幸福の王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。

幸福の王子は皆の自慢でした。「風見鶏と同じくらいに美しい」と、芸術的なセンスがあるという評判を得たがっている一人の市会議員が言いました。「もっとも風見鶏ほど便利じゃないがね」と付け加えて言いました。これは夢想家だと思われないように、と心配したからです。実際には彼は夢想家なんかじゃなかったのですが。

「どうしてあの幸福の王子みたいにちゃんとできないの」月が欲しいと泣いている幼い男の子に、賢明なお母さんが聞きました。「幸福の王子は決して何かを欲しがって泣いたりしないのよ」

「この世界の中にも、本当に幸福な人がいる、というのはうれしいことだ」失望した男が、この素晴らしい像を見つめてつぶやきました。

「天使のようだね」と、明るい赤のマントときれいな白い袖なしドレスを来た養育院の子供たちが聖堂から出てきて言いました。

「どうしてそのようなことがわかるのかね」と数学教師がいいました。「天使など見たことがないのに」

「ああ、でも見たことはありますよ。夢の中で」と子供たちは答えました。すると数学教師は眉をひそめてとても厳しい顔つきをしました。というのは彼は子供たちが夢を見ることはよろしくないと考えていたからです。

ある晩、その町に小さなツバメが飛んできました。友達らはすでに六週間前にエジプトに出発していましたが、そのツバメは残っていました。彼は最高にきれいな葦に恋をしていたからです。ツバメが彼女に出会ったのは春のはじめ、大きくて黄色い蛾を追って川の下流へ向かって飛んでいたときでした。葦のすらっとした腰があまりにも魅力的だったので、ツバメは立ち止まって彼女に話しかけたのです。

「君を好きになってもいいかい」とツバメは言いました。ツバメは単刀直入に話すのが好きでした。葦は深くうなずきました。そこでツバメは、翼で水に触れながら彼女の周りをぐるぐると回り、銀色のさざなみを立てました。これはツバメからのラブコールで、それは夏中続きました。

「彼女はおかしな恋人だね」と他のツバメたちがぺちゃぺちゃ言いました。「財産はないくせに、親戚は多すぎるときてる」実際、その川は葦でいっぱいだったのです。やがて、秋が来るとそのツバメたちもみんな飛んでいってしまいました。

みんなが行ってしまうと、ツバメはさびしくなり、自分の恋人にも飽き始めました。「彼女は何も話してくれないしな」ツバメは言いました。「それに浮気っぽいんじゃないかと思うんだ。だって彼女はいつも風といちゃついてるんだから」確かに、風が吹くといつも、葦は最高に優美なおじぎをするのでした。「彼女は家庭的なのは認めるけれど」とツバメは続けました。「でも、僕は旅をするのが好きなんだから、僕の妻たるものも、旅をするのが好きでなくっちゃ」

とうとうツバメは「僕と一緒に行ってくれないか」と彼女に言いました。でも葦は首を横に振りました。彼女は自分の家にとても愛着があったのです。

「君は僕のことをもてあそんでいたんだな」とツバメは叫びました。「僕はピラミッドに出発するよ。じゃあね」ツバメは飛び去りました。
幸福の王子 1
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幸福の王子の両眼は涙でいっぱいになっていました。そしてその涙は幸福の王子の黄金の頬を流れていたのです。幸福の王子の顔は月光の中でとても美しく、小さなツバメはかわいそうな気持ちでいっぱいになりました。

「あなたはどなたですか」ツバメは尋ねました。

「私は幸福の王子だ」

「それなら、どうして泣いているんですか」とツバメは尋ねました。「もう僕はぐしょぬれですよ」

「まだ私が生きていて、人間の心を持っていたときのことだった」と像は答えました。「私は涙というものがどんなものかを知らなかった。というのは私はサンスーシの宮殿に住んでいて、そこには悲しみが入り込むことはなかったからだ。昼間は友人たちと庭園で遊び、夜になると大広間で先頭切ってダンスを踊ったのだ。庭園の周りにはとても高い塀がめぐらされていて、私は一度もその向こうに何があるのかを気にかけたことがなかった。周りには、非常に美しいものしかなかった。廷臣たちは私を幸福の王子と呼んだ。実際、幸福だったのだ、もしも快楽が幸福だというならば。私は幸福に生き、幸福に死んだ。死んでから、人々は私をこの高い場所に置いた。ここからは町のすべての醜悪なこと、すべての悲惨なことが見える。私の心臓は鉛でできているけれど、泣かずにはいられないのだ」

「何だって! この幸福の王子は中まで金でできているんじゃないのか」とツバメは心の中で思いました。けれどツバメは礼儀正しかったので、個人的な意見は声に出しませんでした。

「ずっと向こうの」と、幸福の王子の像は低く調子のよい声で続けました。「ずっと向こうの小さな通りに貧しい家がある。窓が一つ開いていて、テーブルについたご婦人が見える。顔はやせこけ、疲れている。彼女の手は荒れ、縫い針で傷ついて赤くなっている。彼女はお針子をしているのだ。その婦人はトケイソウ〔訳注:(passion-flower)この花の副花冠はキリストのいばらの冠に似ているという〕の花をサテンのガウンに刺繍しようとしている。そのガウンは女王様の一番可愛い侍女のためのもので、次の舞踏会に着ることになっているのだ。その部屋の隅のベッドでは、幼い息子が病のために横になっている。熱があって、オレンジが食べたいと言っている。母親が与えられるものは川の水だけなので、その子は泣いている。ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん。私の剣のつかからルビーを取り出して、あの婦人にあげてくれないか。両足がこの台座に固定されているから、私は行けないのだ」

「私はエジプトに行きたいんです」とツバメは言いました。「友人たちはナイル川に沿って飛びまわったり、大きな蓮の花に話しかけたりしています。まもなく、みんなは偉大な王の墓の中で眠ります。王もまた、そこの彩られた棺の中にいます。王は黄色の亜麻布で包まれ、香料を使ってミイラになっています。首には青緑色の翡翠の首飾りがかけられ、王の両手はまるでしおれた葉のようなんですよ」

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「もう一晩泊まって、私のお使いをしてくれないか。あの子はとても喉が乾いていて、お母さんはとても悲しんでいるのだよ」

「私は男の子が好きじゃないんです」とツバメは答えました。「去年の夏、川のほとりにいたとき、二人の乱暴な男の子がおりました。粉引きの息子たちで、二人はいつも僕に石を投げつけました。もちろん一回も当たりませんでしたよ。僕たちツバメはそういうときにはとてもうまく飛びますし、その上、僕は機敏さで有名な家系の出ですから。でも、石を投げてくるっていうのは失礼な証拠ですよね」

でも、幸福の王子がとても悲しそうな顔をしましたので、小さなツバメもすまない気持ちになりました。「ここはとても寒いですね」とツバメは言いました。「でも、あなたのところに一晩泊まって、あなたのお使いをいたしましょう」

「ありがとう、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。

そこでツバメ幸福の王子の剣から大きなルビーを取り出すと、くちばしにくわえ、町の屋根を飛び越えて出かけました。
幸福の王子 2
»»  2010.08.01.
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次の日、ツバメは波止場へ行きました。大きな船のマストの上にとまり、水夫たちが大きな箱を船倉からロープで引きずり出すのを見ました。箱が一つ出るたびに「よいこらせ!」と水夫たちは叫びました。「僕はエジプトに行くんだよ!」とツバメも大声を出しましたが、誰も気にしませんでした。月が出るとツバメ幸福の王子のところに戻りました。

「おいとまごいにやってきました」ツバメは声をあげました。

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「もう一晩泊まってくれませんか」

「もう冬です」ツバメは答えました。「冷たい雪がまもなくここにも降るでしょう。エジプトでは太陽の光が緑のシュロの木に温かく注ぎ、ワニたちは泥の中に寝そべってのんびり過ごしています。友人たちは、バールベック寺院の中に巣を作っており、ピンクと白のハトがそれを見て、クークーと鳴き交わしています。幸福の王子様。僕は行かなくちゃなりません。あなたのことは決して忘れません。来年の春、僕はあなたがあげてしまった宝石二つの代わりに、美しい宝石を二つ持って帰ってきます。ルビーは赤いバラよりも赤く、サファイアは大海のように青いものになるでしょう」

「下のほうに広場がある」と幸福の王子は言いました。「そこに小さなマッチ売りの少女がいる。マッチを溝に落としてしまい、全部駄目になってしまった。お金を持って帰れなかったら、お父さんが女の子をぶつだろう。だから女の子は泣いている。あの子は靴も靴下もはいていないし、何も頭にかぶっていない。私の残っている目を取り出して、あの子にやってほしい。そうすればお父さんからぶたれないだろう」

「もう一晩、あなたのところに泊まりましょう」ツバメは言いました。「でも、あなたの目を取り出すなんてできません。そんなことをしたら、あなたは何も見えなくなってしまいます」

ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん」と幸福の王子は言いました。「私が命じたとおりにしておくれ」

そこでツバメ幸福の王子のもう片方の目を取り出して、下へ飛んでいきました。ツバメはマッチ売りの少女のところまでさっと降りて、宝石を手の中に滑り込ませました。「とってもきれいなガラス玉!」その少女は言いました。そして笑いながら走って家に帰りました。

それからツバメ幸福の王子のところに戻りました。「あなたはもう何も見えなくなりました」とツバメは言いました。「だから、ずっとあなたと一緒にいることにします」

「いや、小さなツバメさん」とかわいそうな幸福の王子は言いました。「あなたはエジプトに行かなくちゃいけない」

「僕はずっとあなたと一緒にいます」ツバメは言いました。そして幸福の王子の足元で眠りました。

次の日一日、ツバメ幸福の王子の肩に止まり、珍しい土地で見てきたたくさんの話をしました。ナイル川の岸沿いに長い列をなして立っていて、くちばしで黄金の魚を捕まえる赤いトキの話。世界と同じくらい古くからあり、砂漠の中に住んでいて、何でも知っているスフィンクスの話。琥珀のロザリオを手にして、ラクダの傍らをゆっくり歩く貿易商人の話。黒檀のように黒い肌をしており、大きな水晶を崇拝している月の山の王の話。シュロの木で眠る緑の大蛇がいて、二十人の僧侶が蜂蜜のお菓子を食べさせている話。広く平らな葉に乗って大きな湖を渡り、蝶といつも戦争しているピグミーの話。

「可愛い小さなツバメさん」幸福の王子は言いました。「あなたは驚くべきことを聞かせてくれた。しかし、苦しみを受けている人々の話ほど驚くべきことはない。度しがたい悲しみ以上に解きがたい謎はないのだ。小さなツバメさん、町へ行っておくれ。そしてあなたの見たものを私に教えておくれ」
幸福の王子 3
»»  2010.08.01.
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